2025.07.26
最終更新日:2025.07.26

『ただの飯フレです』|メフレ=メシだけの関係の二人の会話が心にしみる栄養満点のシン・食マンガ【このマンガの実写化が見たい!|南 信長】

数ある漫画の中から実写にしてほしい作品を、マンガ解説者の南 信長氏が紹介する。

『ただの飯フレです』

『ただの飯フレです』
Ⓒさのさくら/幻冬舎コミックス

メフレ=メシだけの関係の二人の会話が
心にしみる栄養満点のシン・食マンガ

「飯フレ」と書いて「メフレ」と読む。いささか強引な気はするが、セックスだけの関係のセフレになぞらえ、メシだけの関係をそう呼んだのが本作のタイトルの由来である。

 派遣OLの春川は、一人で飲食店に入るのが苦手。マッチングアプリでごはん友達を探してみるも、寄ってくるのは“ヤリモク”の男ばかり。もうやめようと思っていたところに届いた生真面目そうなメッセージに「最後に一度くらい」と応じてみたら、現れたのは金髪&縦ロールのウィッグをかぶった怪しげな男だった。しかも、連れていかれたのはラブホ街。結局ヤリモクか…と思ったところが、到着したのはこれまた怪しげな店構えの寿司屋だった。「(この店は)予約2人からなんです」と男は言う。大将は無愛想ながら出てきた寿司は絶品で、ちょっと変だが誠実そうでよく食べる彼との食事は楽しかった。久しぶりのお酒も相まって、すっかりリラックスした彼女は、帰り際、男に「メフレ」になることを提案する。

バッドベイビーは泣かない 2

 お互い気の向いたときに誘い合い、都合が悪ければ断るという気楽な関係。焼き肉、しゃぶしゃぶなどの一人では行きづらい店だけでなく、居酒屋やファミレスにも行く。二人の食べっぷりは気持ちよく、料理へのコメントも気がきいてる。が、いわゆるグルメマンガとは違う。食事をしながらの会話こそが本作のキモだ。

 仕事との向き合い方や対人関係について、愚痴でも相談でもなく、フラットに語り合う。メシだけの関係だから話せることもあり、重くならず軽すぎず展開していく会話が滋味深い。二人だけの閉じた世界を描くのではなく、それぞれが同僚や学生時代の友人などと食事をする場面もあり、そこでの会話もじわじわくる。

 恋愛や結婚が話題に上ることはあっても、二人の間にそういう空気は流れない。「お互いの関係への解釈が一致してる状態って割と奇跡な気がしてきますね」という男の言葉は自分たちに向けたものではないが、そんな人生の真理を突く名言が随所に登場し、ハッとさせられる。

 全体としてのつながりはありつつ、基本的には一話完結。グルメ要素も盛り込めて、深夜の30分枠にぴったりだ。実現すれば、新たな飯テロドラマになること間違いなし!

『ただの飯フレです』コミック

『ただの飯フレです』
1〜4巻 さのさくら/幻冬舎コミックス

マッチングアプリで出会った二人が、互いの本名も知らぬまま、ごはん友達になる。おいしそうな料理と滋味深い会話、仕事や人生にきく名言にもグッとくる令和の最新食マンガ!

南 信長

マンガ解説者。朝日新聞ほか各雑誌で執筆。著作に『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『漫画家の自画像』『メガネとデブキャラの漫画史』など。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。

RECOMMENDED