2026.05.09
最終更新日:2026.05.09

不機嫌顔の名演製造マシーン|エヴァン・ピーターズ(1987年生まれ)【長谷川町蔵が勝手に選ぶ、世界のおじさん迷宮会】

『ザ・ビューティー 美の代償』

『ザ・ビューティー 美の代償』
ディズニープラス スターで独占配信中 ©2026 Disney and its related entities

エヴァン・ピーターズ(1987年生まれ)
不機嫌顔の名演製造マシーン

エヴァン・ピーターズほど、映画ファンとテレビドラマ視聴者のあいだで評価が乖離している俳優も珍しい。映画における彼のイメージが、『X-MEN』シリーズで俊足ミュータント、クイックシルバーを演じた人でしかないのに対し、ドラマ界での彼は、名演製造マシーンと呼ぶにふさわしい存在感を放っているからだ。

その活躍を支えてきたのが、プロデューサー兼監督のライアン・マーフィー。シーズンごとに設定と役柄が刷新されるホラー・アンソロジー『アメリカン・ホラー・ストーリー』では、12シーズン中9シーズンに出演。初期はまだ少年性を残した風貌を生かし、頼りないザコキャラを担うことが多かったが、年齢を重ねて、不機嫌にも見える険しい表情が定着するにつれ、物語の中心を担うポジションへと出世。シーズン7『カルト』では、フリーターからネトウヨ系カリスマに成り上がる姿を怪演した。この成果を踏まえ、マーフィーは実在の連続殺人犯を描いた『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』の主役に彼を抜擢。良心の欠落した怪物を演じきったピーターズは、各種アワードを獲得し、キャリアの決定打を放った。

そんな彼の最新主演作も、やはりマーフィー作品『ザ・ビューティー 美の代償』だ。完璧な美貌をもたらす新薬をめぐる、陰惨なこの物語で、ピーターズはこれまでのイメージとは対照的な、不自然な美を憎むFBI捜査官を演じている。アクションもばりばりこなしていて、やたらとカッコいい。なぜ険しい顔つきの彼が正義のヒーローを演じているのか。実際にドラマを観れば、その意図は明らか。薬によって“美しく”なった悪人たちを演じるのは、アシュトン・カッチャー、アンソニー・ラモス、ジェレミー・ポープといった、普段はナイスガイ役の多いイケメンたち。外面的魅力と役の倫理性にズレを配して、視聴者の「美」と「善」の短絡的な結びつきを揺さぶるキャスティングになっているのだ。その一方で、観客が目を背けがちなダークな役柄を恐れずに長年にわたってこなし続けてきたピーターズの存在そのものが、本作における真の“美”なのである。

『ザ・ビューティー 美の代償』

監督/ライアン・マーフィーほか 
出演/エヴァン・ピーターズ、レベッカ・ホール、アシュトン・カッチャーほか

国際的スーパーモデルたちが、次々と爆死する事件を任されたFBI捜査官クーパーは、謎の性感染症ウイルスが原因であることに気づく。その正体は完璧な美をもたらす薬“ザ・ビューティー”だった…。ディズニープラス スターで配信中の18禁サスペンス・ドラマ。

長谷川町蔵

文筆家。映画、音楽雑誌など複数の媒体で執筆。大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1~3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。

RECOMMENDED