2024.04.21

『Mr.&Mrs.スミス』|あのスパイ活劇が現代に再生。即席夫婦が直面する危機とは?【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する。

「Mr.&Mrs.スミス」

「Mr.&Mrs.スミス」
©Amazon MGM Studios

あのスパイ活劇が現代に再生
即席夫婦が直面する危機とは?

 互いに暗殺者である正体を隠した夫婦を描くブラピ&アンジー主演のヒット映画『Mr.&Mrs.スミス』。スパイ・アクションでありながら結婚生活の困難や夫婦間の諍いといったテーマを込めた秀作だが、さてそこから約20年。マッチングアプリがすっかりカジュアルなものとなった現代において、それぞれの素性がわからないまま男女が出会うという物語はより現実味を帯びて見える。ドラマ版の主役はアフリカ系のジョンとアジア系のジェーン。外見も能力も完璧な浮世ばなれした美男美女が主人公だった映画版と比べて、こちらの二人は一見どこにでもいるような平凡な男女として登場する。

 就職先として謎の諜報機関のエージェントとなったジョンとジェーンは、任務のため夫婦となり共同生活を開始。世界各地での危険なミッションをこなすうち、彼らの間には愛情に似たものが芽生えていく。毎回の見せ場となる銃撃、追跡、格闘といったアクションの一方で描かれるのは、夫と妻の実にどうしようもない、しかし誰でも心当たりがあるような言い争いやすれ違いだ。家事を含む日常生活に関するストレス、相手のキャリアへの嫉妬、理想とする家族像の違いなどなど原因はさまざま。本当の人物像をよく知らぬまま即席でカップルとなったぶん、やがて見えてくる断絶はより深刻なものとなる。これはまさにネットを通じて交際が始まることが珍しくない、現代における男女関係そのものではないだろうか。

 キャストではジェーンを演じる日系アメリカ人女優マヤ・アースキンが特に魅力的だ。失礼ながら最初はパッとしないヒロインに思えたものの、他人に本心をさらけ出すのが苦手な孤独な女性の揺れる心情を、コミカルな芝居の中で表現する演技にいつしか引き込まれてしまった。ジェーンのキャラクターが象徴するように、個人主義を貫く生き方が許された時代の中で、それでも多くの問題を乗り越えてパートナーとともに生きる意味をこのドラマは問いかけている。会話の妙、挿入曲のセレクトを含めセンスのいいエンタメでありつつも、今こそリブートする意義が感じられる快作である。

「Mr.&Mrs.スミス」

監督/ヒロ・ムライほか
出演/ドナルド・グローヴァー、マヤ・アースキン、ポール・ダノ

ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー共演のアクション・コメディ映画をリブート。製作総指揮・主演はチャイルディッシュ・ガンビーノ名義で音楽界でも活躍するドナルド・グローヴァー。「Mr.&Mrs.スミス」PRIME VIDEOで全8話独占配信中。

宇都宮秀幸

編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。

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