2023.05.26

『ガンニバル』|人喰い村の恐怖を描く刺激的サイコスリラー【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する連載。今回は、人喰い村の真相を追う二宮正明のサスペンス・コミックを実写ドラマ化した「ガンニバル」。

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人喰い村の恐怖を描く 刺激的サイコスリラー

 ディズニープラスと言えば家族向けの印象が強いが、その色にとらわれないブランド「スター」から強烈なエンターテインメントが登場した。なにしろ描かれるのはカニバリズム=人肉嗜食であり、地上波ではまず扱えないであろう題材だ。


 山間の村に駐在として赴任した警察官の阿川は、前任者の失踪事件を探るうちに村人が人間を喰っているという恐ろしい噂を知る。真相を追う彼はやがて村に隠された想像を超える事実に直面する。


 人里離れた地を訪れた都会人が恐怖を味わうはめになる話と聞けば、例えば『悪魔のいけにえ』や『クライモリ』シリーズといったヒルビリー(山間部に住む貧しい白人の蔑称)をネタにしたアメリカン・ホラーを連想する。本作はそこに横溝正史『犬神家の一族』を思わせる、日本特有の土着的な要素が加わっているのが特徴。新参者である主人公一家を初めは温かく迎え入れるかに見えたが、次第に暗い本性を現す村人たち。プライバシーはないに等しく、人々は互いを常に監視し合いながら生活している。そこでは村の掟と異なる価値観をもつ者は異端とみなされたちまち排除されるのだ。


 カニバリズムという過激な主題に目がいきがちだが、本作において真に恐ろしいのは、この閉鎖的な共同体における他者への過剰な干渉や連帯の強要である。主人公同様に視聴者もまたジワジワと村の空気に追い詰められていくわけで、単なる推理サスペンスではない、ねっとりとした怖さがある。さらに言うなら、一見異常なこの「村」とは、実は同調圧力に支配され続ける「日本」という国そのものの戯画のようにも思えてくるのだ。


 柳楽優弥がパワフルに演じる主人公も事件の解決を願う正義の人などではなく、得体の知れない内面の衝動に従って暴走しているように描かれているのが面白い。


 国産サスペンスのセオリーを軽々と超えつつも同時に日本ならではのテーマに踏み込んだ本作は、演出・演技・撮影とすべてのレベルが高く夢中にさせられる。このコラムで日本発の作品を紹介するのは珍しいが、海外ドラマしか見ない方にも強力プッシュしておきたい!


『ガンニバル』
監督/片山慎三、川井隼人 脚本/大江崇允 出演/柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、倍賞美津子

二宮正明によるサスペンス・コミックを実写ドラマ化。ある村に隠された秘密を描く。監督に『岬の兄妹』『さがす』の片山慎三、脚本に『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允。ディズニープラス「スター」で「ガンニバル」全7話独占配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。



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