名作サスペンス続編に秘めた
一人の女性クラリスの物語

 クラリス・スターリング特別捜査官といえば、31年前の名作『羊たちの沈黙』で若きジョディ・フォスターが演じ、見事オスカー主演女優賞を獲得したハマリ役だ。『羊たち〜』にはその後、続編や前日譚、スピンオフ・ドラマなど多くの派生作品が生まれたが、それらは食人鬼ハンニバル・レクター博士の強烈なキャラクターに焦点を当てたものがほとんど。『羊たち〜』の魅力はレクターだけでなく、彼と対になるクラリスあってこそと長年感じていた筆者にとって、今回のドラマはまさに待望だったと言っていい。


 物語は女性たちを監禁・殺害した凶悪犯バッファロー・ビルの事件をクラリスが解決した『羊たち〜』の1年後に始まる。ある連続惨殺事件を機に捜査に加わるよう命じられたクラリスは、やがて想像を超える悪と向かい合うことになる。


 かつてフォスターがつくり上げた、知的で意志が強く、同時に繊細でどこか危うさも感じさせるクラリスの人物像を、今回抜擢されたレベッカ・ブリーズも見事に体現。今作でのクラリスは、バッファロー・ビル事件によるPTSDと亡くなった父親にまつわる古い記憶に苦しんでいる。彼女だけでなく、被害者や同僚の刑事、さらには真犯人までの誰もが、このドラマでは自身の心に暗い闇を抱えもつ。惨殺事件の裏に隠された意外な陰謀を追うミステリーとして面白いのはもちろんだが、今作はそれ以上に人が生きるうえで背負ってしまった内面の傷と、それをいかに克服するかについて描いた心理劇なのだ。より具体的には、親子関係が人の心に与える影響こそが裏テーマであり、この点では擬似的な父と娘の物語でもあった『羊たち〜』を継承・発展させた続編とも言えるのではないか。その中心にいるのは常にクラリスであり、男社会のFBIの中で必死にもがく職業人として、また過去を清算し前向きに生きようとする個人として、彼女のストーリーは人間くさい魅力を放つ。ドラマ版「ハンニバル」のような猟奇ものとしての派手さはないものの、丁寧な作劇と人物描写に優れた見ごたえある良作サスペンスとしてオススメしておきたい。


「クラリス」
監督/デメイン・デイヴィスほか 出演/レベッカ・ブリーズ、ルッカ・デ・オリヴェリア、マイケル・カドリッツ、ジェイン・アトキンソン

アカデミー賞5部門に輝いた『羊たちの沈黙』のその後を描くサスペンス・ドラマ。FBIの新人女性捜査官クラリスが再び凶悪な殺人事件に挑む姿を、原作シリーズから離れたオリジナル脚本で描く。Hulu「クラリス」全13話配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。



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