2022.12.19

【チェンソーマン】呂布カルマ(ラッパー)×林士平(『チェンソーマン』編集担当)、藤本タツキという才能を語る。

斬新なキャラクター造形に、ダイナミックなアクションシーン、意表を突きまくりのストーリー展開。いま最も注目すべきマンガ『チェンソーマン』。第2部スタート、そして待望のアニメ化など、怒濤の快進撃を続ける衝撃作の魅力とは何なのか? アニメ・原作関係者、ファンなど9人が熱すぎる思いを激白する。

【チェンソーマン】呂布カルマ(ラッパー)の画像_1

呂布カルマ(ラッパー)  本当に底知れない才能ですよね

林士平(『チェンソーマン』担当編集)  最新作が常にいちばん面白い


※マンガ原作を未読で、アニメ版のみ
視聴している方には、
キャラクターや
ストーリー上のネタバレを含みますので、
ご注意ください。

藤本タツキという才能を二人が語る。

――呂布さんが初めて藤本タツキ先生を知ったのはいつですか?

呂布 『チェンソーマン』の前の連載作品の『ファイアパンチ』ですね。最初からがっつりつかまれました。途中でなぜか映画を撮り始めたり、予想もできない展開で、最後もとんでもない終わり方で感動しました。

 『ファイアパンチ』って「ジャンプスクエア」で企画を回して、3回落ちているんですよ。

 はい。それで「少年ジャンプ+」に持っていったら、「試してみよう」と始めさせてくれたんです。当時のことでよく覚えているのは、第1話を校了しているときに、「ああ、これを世に出せるんだ」という安堵と、「とんでもないものを世に放ってしまう」という武者震い的な感覚になったこと。主人公のアグニが燃えながら妹に「生きて…」と言われるページAとかは「とんでもないものを入稿しているな」って。「これはちょっと入稿しきるのに、気合がいるぞ」と思ったので、一回立ってお茶を取りに行ってから作業したのを覚えてます。


A

『ファイアパンチ』
『ファイアパンチ』 ©︎藤本タツキ/集英社

呂布 いや、すごい第1話でしたからね。本当に映画を観ているような、「とんでもないマンガが始まったぞ」みたいな感覚。その作者が次は「週刊少年ジャンプ」で連載を始めるというから、王道の少年誌で何をやるんだろうと思っていたら、『チェンソーマン』ですからね。『ファイアパンチ』もそうですけど、『チェンソーマン』ってタイトルもなかなかですよね(笑)。

 『チェーンソーマン』と迷って、最終的に『チェンソーマン』になりました。

――『チェンソーマン』はどう読んだんですか? 

呂布 これも第1話からがっつりつかまれましたね。印象に残っているシーンはいっぱいあるんですけど、デンジがマキマさんの犬になってB、パワーちゃんが…!ってあたりはすごかったなあ。僕、普段は単行本派なんですよ。でも、その時期はSNSを見るとネタバレが流れてくるから、これはちょっと待てないと思って、申し訳ないですけど毎週立ち読みしてました。


B

【チェンソーマン】呂布カルマ(ラッパー)の画像_3
©︎藤本タツキ/集英社

 いえいえ、ありがたいです。

呂布 『チェンソーマン』って本来はいろいろなマンガを読んだ先に行き着くマンガだと思うんですよ。「週刊少年ジャンプ」という、多くの人が最初に手に取るであろうマンガ雑誌にアレがいきなり載っちゃっているというのは、飛び級じゃないですけど、もうちょっと秘密にしておいてほしかったみたいな感覚はありましたね。本当だったら、順を追って触れるべきほかのいろいろなマンガをすっ飛ばしちゃうなって。

――ちなみに、呂布さんが好きな『チェンソーマン』のキャラクターって誰なんですか?

呂布 僕はやっぱりパワーちゃんですね。最悪じゃないですか(笑)。最悪だけどかわいい。妹感があってC。藤本先生ってどのキャラにいちばん思い入れがあるんですか?


C

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©︎藤本タツキ/集英社

 たぶんデンジなんじゃないかなと思うんですけど、どのキャラもすごく生き生きと描いていますし、特定のキャラだけを語ることはほぼないですね。

呂布 そのわりに、あっけなく殺しちゃいますよね。

 キャラの生死に関しては、かなり考え抜いて描かれている印象があります。ただ単にショッキングだからという理由ではなくて、藤本先生が物語に対して真摯に考えているから、結果的にそうなってしまうだけなんだと思います。

――藤本先生の物語のつくり方って、どういうプロセスになっているんですか?

 彼はネームで考えるタイプなので、ネームで見せたいとよくおっしゃいますね。雑談の流れで話をすることもありますけど、特にクリティカルなアイデアとか驚くようなところはネームで見せたいという意識が強いです。例えば『チェンソーマン』だと、パワーちゃんがコベニのクルマでデンジと黒瀬を轢く回Dはマジでネームでしか見せてくれなくて。やっぱり初めて見たとき衝撃を受けるわけじゃないですか。聞いたら、「あれは打ち合わせでしゃべっても伝わらないでしょう」と言われて、それはそうだよなと。


D

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©︎藤本タツキ/集英社

――藤本先生の作品で呂布さんがいちばん好きなものは?

呂布 『ルックバック』です。深夜の3時頃に読んだんですけど、あまりにも衝撃で、どうしても嫁さんに読ませたくて起こしに行きました。ウチの嫁はマンガ家なんです。子どもがまだ小さくて朝が早いから、その時間は当然寝てるんですけど寝室に行って、「ちょっとごめん。藤本タツキの読み切りを読んでくれない」って。「何時だと思ってるの!」ってめちゃくちゃ怒られましたね(笑)。さすがにその場では読んでくれませんでしたが、起きてから読んだらやはり衝撃を受けてました。

――具体的にどのあたりに衝撃を受けたんですか?

呂布 実は僕も大学生の頃まで本気でマンガ家になりたかったんですよ。嫁も僕も子どもの頃からマンガを描いていたので、まず主人公の藤野がマンガ家を目指すって設定で感情移入しちゃって。いちばん好きなのは、藤野が、自分より絵がうまい不登校のクラスメイトが自分のマンガのファンだということを知って、雨の中を踊りながら帰るシーンE。あそこはめちゃ泣きましたね。


E

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『ルックバック』 ©︎藤本タツキ/集英社

 いいシーンですよね。

呂布 言葉にするのは難しいけど、マンガを描く人って皆ああいう気持ちがあると思うんです。嫁も泣いてましたから。あれはたまらなかったです。

――林さんのいちばんの作品は何ですか?

 担当編集ということもありますけど、僕の場合、それは常に最新作です。彼の生み出すいちばん新しいものがいちばん面白いと思いながら読んでます。

呂布 『チェンソーマン』の第2部も始まりましたけど、本当に底知れない才能ですよね。

 はい。彼はとんでもない作家になる、と信じております。

呂布 まだ20代でしたっけ?

 いや、この間、30歳になりました。

呂布 まだ30歳なんだ。僕は結局、マンガ家とは違う道を選びましたけど、自分が彼と同業だったら「たまらんやろうな」って思いますね。すべての表現のクオリティがむちゃくちゃ高いだけじゃなく、今までにある表現のクオリティのいちばん高いものを見せられているから。

 マンガ表現っていろいろな山があって、藤本さんが登っているのとは違う山でもすごくいい景色の山があると思うので、全然気にする必要はないんですけどね。僕もいろいろな作家さんを抱えていて、打ちひしがれる方もいらっしゃいます。でも、同じような作家になりたいんだったらそれは仕方ないし悔しがればいいですけど、そうじゃないのなら、その時間がもったいないので、「とにかく描きましょう」と話します。

――この時点ではまだ始まったばかりですけど、TVアニメ『チェンソーマン』に関してはどうですか?

呂布 ゾンビの悪魔が想像していたよりもデケエと思いましたね。マンガではあんなにデカかったでしたっけF


F

【チェンソーマン】呂布カルマ(ラッパー)の画像_7
©︎藤本タツキ/集英社

 マンガは遠近法もありますけど、それを差し引いてもちょっとデカいかもしれません(笑)。

――アニメのことで藤本先生と何か話はするのですか?

 いや、もう日々バッタバタなので、「よかったですね」「素晴らしいアニメスタッフにつくっていただけて幸せですね」って話はしてますけど、すぐに「で、締め切りですが…」みたいな感じになって、ゆっくり話はしていないです。マンガを連載していることがアニメチームへの最高の応援だと思うんですよ。マンガが盛り上がったら、必然的にアニメも盛り上がりますから。「ジャンプ+」って休もうと思ったら休めるんですけど、「なるべく休みたくない」と言ってくれていて、本当にずっと描き続けてくれていますね。

呂布 マジ、リスペクトです。僕らから言えるのは、とにかく身体を壊さないように頑張ってくださいってことだけです。これからも応援しています。


RYOFF KARMAプロフィール画像
RYOFF KARMA
ラッパー。ヒップホップレーベル「JET CITY PEOPLE」代表。音楽活動のほか、グラビアディガーとしても活躍。
LIN SHIHEIプロフィール画像
LIN SHIHEI
漫画編集者。担当作品は『SPY×FAMILY』『HEART GEAR』『ダンダダン』『神のまにまに』『全部ぶっ壊す』など。


Interview&Text:Masayuki Sawada

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