2022.12.15

【中山竜(TVアニメ『チェンソーマン」監督)】メジャーにも届き、コアにも刺さる『チェンソーマン』をつくりたい

斬新なキャラクター造形に、ダイナミックなアクションシーン、意表を突きまくりのストーリー展開。いま最も注目すべきマンガ『チェンソーマン』。第2部スタート、そして待望のアニメ化など、怒濤の快進撃を続ける衝撃作の魅力とは何なのか? アニメ・原作関係者、ファンなど9人が熱すぎる思いを激白する。

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その面白さ、面妖なり。

TVアニメ『チェンソーマン』より。1
TVアニメ『チェンソーマン』2
©︎藤本タツキ/集英社・MAPPA

TVアニメ『チェンソーマン』より。主人公のデンジは、ゾンビの悪魔に殺された後、相棒のポチタ(チェンソーの悪魔)と契約、悪魔の心臓をもつ「チェンソーマン」として復活を果たす。


中山竜(TVアニメ『チェンソーマン』監督) メジャーに届き、コアにも刺さる『チェンソーマン』をつくりたい

現在絶賛放送中のTVアニメ『チェンソーマン』。圧倒的なクオリティ、ファンタジーとリアリティを最大限に追求したキレッキレの演出は、従来のアニメーション表現を拡張し、原作ファンの間だけでなく、多方面で大反響を巻き起こしている。このアニメ『チェンソーマン』の制作の中心にいるのが、中山竜監督だ。作品づくりにかける思い、そして後半パートに突入し、いよいよ加速していく作品世界について話を聞いた。

どんなに大変であってもひとまずやり遂げる

――『チェンソーマン』が初監督作品となります。オファーを受けたときはどう思いました?

中山 ビッグタイトルなので、最初に聞いたときは驚きました。ただ、自分自身も監督作をそろそろもちたいと思っていた段階だったし、お話をいただいたのが29歳の頃で、30歳までには監督をやりたいなと思っていたから、ぎりぎり滑り込みで大きいお話をいただけてうれしかったです。当時から原作は大好きで読んでいたので、迷うことはなかったですね。

――初めて『チェンソーマン』を知ったのはいつ頃でしたか?

中山 藤本タツキ先生の作品は、前作の『ファイアパンチ』から読んでいて、そのときからものすごい作家さんだなということは感じていました。だから、「週刊少年ジャンプ」で新連載が始まると知ったときから楽しみでしたし、最初から最終話まで本当に一読者として愛読していました。

――当時はどういう作品だと思って読んでいましたか?

中山 もちろん最初からものすごい作品だと思って読んでいたんですけど、途中からそれこそ5巻後半から6巻あたりから、どんどんボルテージが高まっていって、「おっ、ちょっとこのマンガはヤバイぞ」と、さらに別格の領域に入っていった感じがあって、「これは本当にすごい作品だな」と思うようになりましたね。

――原作で好きなシーン、印象に残っているシーンは何かありますか?

中山 いろいろあるんですけど、前半部でいえば、デンジくんがパワーちゃんの胸を揉むというシーンがあって、そこはすごくバカっぽくて好きです。こんなことを少年誌でやるんだ!?と思ったし、そのことをマキマさんに報告するんですよ。「胸を揉んだんですけど、何か全然ピンときませんでした」みたいな感じで。そこから今度はマキマさんの胸を触る展開になっていくんですけど、「一体これは何のマンガだ」と(笑)。でも、そのシーンの少しエッチな感じとデンジくんのシリアス具合のギャップが面白くて好きですね。アニメーションにしたときも面白かったです。

――『チェンソーマン』をアニメ化するにあたって、どういう作品にしたいと思っていましたか?

中山 普通だったら諦めたり、妥協したりするポイントも出てくると思うんですけど、そこに関してもひるまず、どんなに労力が必要で大変であったとしてもやり遂げようというのは思っていました。原作だけでなく、TVアニメ版の『チェンソーマン』も多くの人に観てもらいたいですし、そのためにはコアな人たちだけが楽しめるものだけではなくて、アニメをきっかけに初めて『チェンソーマン』に触れる人にも刺さるような、そういう作品にしたいなと。

――なるほど。

中山 これは『チェンソーマン』に限らないのですが、どの作品でも原作の時点で面白さが確立しているんですよ。ただ、映像化するとなった時点で誰かが監督を務めるわけですが、原作者と監督って別な人間なので、どうしたって違う視点でものをつくることになります。そうなったときに、メジャーに届くであろう『チェンソーマン』の要素というものもあるし、コアな人に刺さりそうだなという要素もあるし、その両方が自分は好きだったので、どちらもうまいバランスでガチッと混じり合うようにしたいと思っていました。

――藤本(タツキ)先生とはどういう話をしたんですか?

中山 藤本先生からは「『チェンソーマン』を題材に好きなものをつくってくれていいです」と言っていただいたんですけど、僕は『チェンソーマン』が好きなので、ちゃんと原作をベースにやりたいという話はしました。特別にああしてほしい、こうしてほしいみたいなことは全然なくて、「キャストはこの人がいいです」「こういうことを考えていますけど、どうですか?」と僕が聞くと、「それでお願いします」と言って信頼して一任してくださるので、自分たちとしてはすごくやりやすかったです。忖度しながらやっているとどうしてもブレーキがかかってしまうので、この風通しのよさはものすごくありがたかったなと思います。


マンガで読んでいたとき以上に解像度が高まっていく

リアリティとファンタジーのバランス

――映像化するうえでどういうところにこだわりましたか?

中山 『チェンソーマン』の魅力、原作の空気感を余すところなく伝える、というところにこだわりをもっています。それを表現するための一つとして、写実的なもの、映画的なものをアニメーションに取り入れることを考えました。藤本先生は映画好きで、マンガの中でも多くの映画作品が参照されていることは有名ですが、僕も映画が好きで、原作からも写実的、映画的要素を感じていました。だからアニメ化にあたって、そういう要素を取り入れたら原作の空気感が出て面白くなるだろうなと。わかりやすくいうと、リアリティとファンタジーのバランスですね。キャラクターを単に描きましたというものじゃなくて、そこにあたかも実在するかのような人物を、カメラで撮っているかのような作品をつくることがしたかったんです。とはいえ、この感覚は演出家によって変わるので、自分がコンテ演出までやっている話数と、ほかの演出家さんにお願いしている話数とではもちろん少し違う部分があると思います。でも、それはそれでいい。「カメラで撮っているという感覚をもってください」ということは皆さんに伝えていて、その空気感はちゃんと出ているので、全体を通してとても面白いものになっていると思います。

――映画好きとのことですが、監督が影響を受けた、あるいは好きな作品って何ですか?

中山 監督でいえば、クリストファー・ノーラン監督とデヴィッド・フィンチャー監督が好きです。お二人ともすでに有名な監督ですが、映像作品としてすごく高度なつくり込みがあって、技術的にレベルが高い。だからコアなファンには刺さる。それでいて、多くの人たちからの支持も得ている。そのバランスに、総合力の高さを感じます。僕はそれを藤本先生からも感じていて、今回『チェンソーマン』をより多くの人たちに伝えたいと考えたときに、彼らのアプローチやフィルムの印象は参考になったかなと思います。

――個人的に「これは素晴らしいな」と思うカットはどれですか?

中山 例えば4話の後半パートでアキくんのモーニングルーティンをやっているんですけど、あの空気感は本当に素晴らしいなと思いました。アキくんが朝起きて、目覚ましを止めて、起き上がって、窓を開けて、歯を磨いて、ベランダに出て、新聞を読んで、たばこを吸って…みたいな、そういう日常をただやっているんですよ。これはアニメオリジナルのシーンで、演出の吉原(達矢)さんにやっていただいたんですけど、すごくいい空気感でアキというキャラクターを掘り下げることができましたし、僕の考える「写実的」という部分が最も端的に表現されたパートになっていると思います。

――では、アクションシーンで「ここはすごいぞ」というのはどれですか?

中山 アクションでいうと、3話のコウモリの悪魔戦のアクションというのは特にアニメ的な手法を突き詰めているんですよ。誇張を入れているし、つじつまが合っているかとか、細かいことではなく、アニメとして映えるつくり方でやっています。逆に、4話のヒルの悪魔戦のアクションというのは、スケール感であったり、アクションのプランニングといったところも含めて、もう少しリアルに寄ったつくり方をしていて、これはもしかしたらアニメーター的な視点なのかもしれないですけど、それぞれ全然違う見え方になっていると思います。7話でも前半で永遠の悪魔を切り裂きまくっているシーンがあったり、8話以降は毎回悪魔と戦ったりとかして、話数ごとに特色があるので、楽しんでもらえるんじゃないかなと。

これまでアクションしていなかったキャラクターがバリバリ動く

――今回の『チェンソーマン』はEDが毎回違うことも話題です。これはどういう経緯で実現したんですか?

中山 僕とプロデューサーの瀬下(恵介)さんと木村(誠)さんとで、特別なエンディングにしたら面白いよねとか、エンディングを毎話数変えたらどうだろうという案を一緒に話し合いながら決めました。どのアーティストにどの話数を担当してもらうかも3人で悩みながら検討しましたね。なかなかないチャレンジなので大変だろうなとは思ったのですが、木村さんは楽曲のアーティストまわりの調整を行い、僕と瀬下さんはお願いしたい映像作家さんやアニメーターさんにひたすら声をかけて、なんとか無事にそれぞれまとまったので、実現させることができました。エピソードごとにそれぞれ違った楽曲、それぞれのディレクターさんの映像が流れるので、すごく見応えがあるエンディングになったんじゃないかなと思います。

――これから後半に入っていきますが、ここに注目してほしいというポイントがあれば教えてください。

中山 これまでのエピソードでは日常描写だったり、マンガでは描かれていない自然な芝居を楽しんでいただけたかなと思うんですけど、8話以降になるとよりアクションが激しくなったり、衝撃的な展開が待っています。これまでアクションしていなかったキャラクターがバリバリ動いたりして、マンガで読んでいたとき以上に解像度が高まりますし、そういったところを作画、演出ともに楽しんでもらえたらなと思っています。

――ちなみに、監督が好きなキャラクターは誰なんですか?

中山 そのときの気分によるというか、自分がおそらく何かに強い執着をもつタイプじゃないので、あまりどれか一つみたいなことにならないのかもしれないです。でも、やっぱりパワーちゃんはかわいいですよね。あとは姫野先輩も好きだし、コベニも好きだし、デンジくんも好きだし、アキくんも岸辺も好き。みんな好きです。


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©︎藤本タツキ/集英社・MAPPA

TVアニメ『チェンソーマン』より。マキマ、早川アキ、血の魔人・パワーらとともに公安対魔特異4課に所属、悪魔と戦う。


(C)藤本タツキ/集英社・MAPPA
TVアニメ『チェンソーマン』 毎週火曜24時よりテレビ東京ほかにて放送中。25時よりPrime Videoにて最速配信。


RYU NAKAYAMA
アニメーター、演出家。主な参加作品は、「呪術廻戦」(絵コンテ、演出、原画)、『劇場版 呪術廻戦0』(原画)、「ブラッククローバー」(絵コンテ、演出、作画監督、原画)、「夜ノヤッターマン」(プロップデザイン キーアニメーター)など。『チェンソーマン』が初の監督作品となる。



Interview&Text:Masayuki Sawada

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