相手がわかるラブソング最強説

 リリース以来、チャート上位をキープしているハリー・スタイルズの「As It Was」。イントロのシンセがどこか懐かしく感じるのは、1985年のa-ha「Take On Me」を連想するからだろう。でも、こういった名作フレーズのオマージュは極めて難しいもの。やったところで「ああ、a-haみたいだね」と嘲笑されるだけで、原曲を超えるものはなかなか生まれない。でも、このフレーズはセンスよく、絶妙にいいラインを突いているなと思う。



 歌詞の内容は、「見えない力が引き留める 君の手を差し出して そのままで 何も言うことはない 全てを取り払ったら 分かったんだ 君の代わりはいないって 世界には僕らだけ 君も分かっているだろ 今までの恋とは違うって」といった、シンプルなラブソングなのだが、曲の冒頭に「ねえハリー、おやすみを言わせて」と子どもの声が入っていたり、歌詞中に「彼女の二人の子どもと一緒にアメリカを離れる」という描写があったりで、現在交際中と噂される恋人の状況と重なるため、ファンの間では公開プロポーズみたいと話題になっているようだ。実際、欧米には恋人を公表して活動しているアーティストも多く、自分の恋愛をストレートに書いた歌も時々ある。まだ日本にはそういうスタイルは浸透していないけれど、そのうち日本も変わっていくのかもしれない。



 と、書きながら、この春にリリースされた、お笑いタレントのヒロミさんが奥さんの松本伊代さんのために作った「神様との約束」という歌を思い出した。これが名曲なのである。二人が出会ったいきさつ、伊予さんの日々の天然エピソード、息子たちへのメッセージ、まっすぐな愛の言葉。ヒロミさんが伊予さんに歌っているとはっきりとわかるからこそ、こちらに伝わってくる特別な何かがこの歌には宿っている。



 映画の主題歌がヒットするのは、その歌が主人公の物語と重なって響くからである。それがフィクションの映画ではなく、ノンフィクションの自分の恋愛となったら、それにかなうものはないのかもしれない。

ハリー・スタイルズ_As It Was_ラブソング

「As It Was」
Harry Style
Sony Music



いしわたり淳治
作詞家、音楽プロデューサー。1997年、バンド「スーパーカー」のギタリストとしてデビューし、すべてのギターと作詞を担当。現在までに700曲以上の楽曲を手がけている。