水上バスは乗らなくてもいいけど
乗ったらとても楽しい乗り物だ



 いろんなところに書いてきたけれど「無駄」が好き! 存在が無くなったとしても人は生きていけるけど、無くなると嫌なものがラグジュアリーなものだと思っている。「雑」って言葉でくくられるものがそれに当たることが多い。雑貨は無くても生きていけるけど、プレゼントにもらうととてもうれしい。雑談する時間もそうだし、雑誌をめくって知る情報もそういうところがあるでしょ。



 でも最近、世の中はなにからなにまでDXなのである!みたいな流れの中で、効率化が最優先されて、無くなってもいいものは、無くしちゃってもいいんじゃないっていう人も多い。そうなっちゃったらつまらないよなあと感じていたときに出会った一冊がこの本。岡本真帆の第一歌集『水上バス浅草行き』。



 ポップな装丁で書店の平積み台で思わず手に取った。数ページ読んだだけで、この歌人は日常風景の中の一見無駄なものに気づく、そんな贅沢なセンサーをもってるんだって気づいた。



「店長の気まぐれケーキのきまぐれの法則性に気づいてしまう」
 それを発見して何の役に立つの?って聞く人がいるかもしれないけど、役に立たない無駄を愛でることができるのは人間だけだって、巨匠SF作家アイザック・アシモフも言ってたよ。その法則性はアシモフにとってみたら至高の発見に違いない。



「平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ」
 人間はビール一杯だけで無限大に楽しめることを教えてくれる。
 実は浅草にお気に入りのワインバーがあって、地下鉄で通っていたんだけれど、今度はこの本のタイトルどおり水上バスで行ってみようと思う。きっと、無駄な発見がいろいろあるに違いない。



 ちなみに、この歌人相当な犬好きと見た。犬がやたらと登場する。
「南極に宇宙に渋谷駅前にわたしはきみをひとりにしない」
 がぜん、犬派の人におすすめしたい歌集でもある。


BOOK

『水上バス浅草行き』
岡本真帆著
ナナロク社 ¥1,870

岡本真帆はツイッターへの短歌投稿で注目を集めた新人歌人。軽やかに、ポップに、時に毒を含んだ視点で現代の生活を描いた第一歌集が『水上バス浅草行き』。記憶の中に埋もれている誰もが見たことある風景を日常生活から切り取り、そこに共感を覚える歌を生み出している。


嶋 浩一郎

1968年生まれ。博報堂ケトル代表取締役社長・共同CEO、編集者。本屋B&Bの運営にもかかわる。著書に『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』『アイデアはあさっての方向からやってくる』など。


Photo:Kenta Sato

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