ドラマのリアリズムを進化させた
木村拓哉×満島ひかりの化学反応

 今クールの最大の目玉ドラマは「未来への10カウント」だ。脚本は「HERO」や「ガリレオ」などでお馴染みの福田靖、監督は「全裸監督」や「トークサバイバー!」といったNetflix制作の話題作を手がけている河合勇人という豪華布陣。そして、木村拓哉と満島ひかりの共演である。あの重心を崩したような身体性、ボソボソとしゃべる無気力さを「カッコイイ」に変換させた発話性…“キムタク”がこの国のテレビドラマのリアリズムを推し進めた貢献度は計り知れない。一方の満島ひかりも、“早口”や“言いよどみ”といった演技におけるノイズ的現象を表現の中に組み込み、対話のリアリズムを作劇に落とし込むことに成功した第一人者。この二人の共演は日本の俳優史のエポックメイキングの掛け算なのだ。



 第一話から無気力なキムタク節が全開。しかし、これまでの“HERO”感を演出するためのキムタク節とはひと味違う。



俺、長生きなんかしたくない
いつ死んでもいい
…なんなら今日でもいい
毎朝目覚めていちばん最初に考えることはいつもおんなじなんだよ
あぁ…また何にも希望のない1日が始まるなぁって



 もはや生きることを諦めているようですらある。対する満島ひかりは、“生命の輝き”としか呼びようのない演技を炸裂させている。内田有紀、生瀬勝久、八嶋智人といったベテラン俳優からの振りに対して、存分に弾けてみせる満島ひかりの躍動が実に楽しい。「生きる希望を失った男」と「生きることの喜びそのものを体現した女」、両者の演技のコントラストがこの作品の最大の見どころだ。



 本作のテーマは“継承”だろう。柄本明が演じる芦屋が高校ボクシング部の監督業を引退し、かつての教え子である桐沢(木村拓哉)にその役割を託した。その桐沢はボクシング部顧問の折原(満島ひかり)や生徒との触れ合いの中で、かつて自身にあった熱い想いを再生させ、それを若者たちに受け渡していく。そして、また別のどこかへ去っていくのではないだろうか。西部劇のクリント・イーストウッドや任俠映画の高倉健のように。テレビ界の中心であったあの“キムタク”が、次世代に譲りゆく枯れた大スターの境地に到達するさまをぜひとも目撃したい。


「未来への10カウント」
テレビ朝日系にて毎週木曜21時から放送中
出演:木村拓哉、満島ひかり

木村拓哉が学園スポーツドラマに初挑戦。生きる希望を失った高校ボクシング部のコーチ・桐沢祥吾(木村)が、高校生たちとともに人生のリングに返り咲く!



ヒコ
人気ブログ「青春ゾンビ」で、ドラマ、映画、お笑いなどのポップカルチャーのレビューを執筆。「10代の頃の自分が読んでも嫌な気持ちにならない文章を書く」ことが信条。


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