今回のアーティスト&楽曲


『Donda』
Kanye West


UNIVERSAL MUSIC


「最近のロッカーは品行方正すぎ。あれじゃあ面白い曲ができるわけない」。そうお嘆きのロックな貴方、ジャンル違いになるけどカニエ・ウェストを聴いてはどうだろうか。何しろカニエ、私生活が破天荒すぎてウォッチしているこちらが疲れてしまうほどなのだ。

彼の最新作は、8月終わりに発表された『Donda』。自分の母親の名をつけた(これだけでどうかしている)同作のタイトルが発表されたのは昨年夏のことだったが、カニエは製作を中断してなぜか米国大統領選に立候補(結局、得票は約6万票)。そのせいで「面倒見きれない」と妻のキム・カーダシアンから離婚を切り出されてしまった。

しかし今年7月にアトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムで突如、公開リスニング・パーティを開催。作りかけの『Donda』を聴くだけのイベントだったが、客席の反応に好感触を抱いたカニエは「このヴァイブスを逃したくない!」とそのままスタジアムのロッカールームに寝泊まりをしながらアルバムの仕上げに取り組んだ。そして8月の完成パーティでは会場中央に再現された生家の中で紅蓮の炎に包まれるという「炎上」がテーマのパフォーマンスを披露したのだった。

こうした掟破りな過程を経て、ついにリリースされた『Donda』は、おびただしい数のゲストとともに母への思慕やキムへの未練、ジーザスへの愛をぶちまけた面白すぎる超大作となった。

ちなみにカニエが原価お構いなしのプロモ活動ができるのは、アディダスとコラボしたスニーカー、イージーブーストがバカ売れしているから。Gapともコラボするなど、カニエはファッション・ビジネスにも精力的。『Donda』にもジュンヤ ワタナベに言及した「Junya」という楽曲が収録されており、同曲ではサビで「俺の腕にワタナベジュンヤ!」と連呼している。ジュンヤ ワタナベのコレクションに時計ラインは存在しないはずなんだけどなあ。



長谷川町蔵
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。