初心者マーク付きの運転と恋。
車と恋と歌の好相性

音楽の聴き方がサブスク主流になって、過去の名曲も今出たばかりの新曲も、検索すれば一秒後に聴くことができるようになった。便利になったけれど、おかげで私たちは新しい不便に出会うことになる。“曲がありすぎて何を聴いたら良いか分からない”。昔好きだった曲ばかり聴いていて最新チャートに置いていかれるのも、若者の音楽をわかったふりするのも何となく違う気がする。そこで、「大人の嗜み」のひとつとして世界でヒットしている曲を、内容まで分かって聴く、という楽しみ方を提案してみたい。

今回取り上げるのは18歳の歌姫オリヴィア·ロドリゴ。過去に子役の女優としても成功を収めた彼女が今年の初めにリリースした「drivers license」が世界中で大ヒットを記録した。テイラー·スウィフトの再来とも囁かれる彼女の特徴のひとつが歌詞。そこにはリアリティという言葉では足りない、失恋の悲しみや悔しさや怒りの「確かな感情の手触り」のようなものがある。

この歌の主人公は運転免許を取ったばかりの女の子。彼氏を家まで送るのを楽しみにしていたし、彼も同じ気持ちだった。でも彼女は今、町外れを一人で運転している。彼はきっと今頃、あの金髪の女の子と一緒にいるのだろう。私はこんなにも苦しいのに、彼が平気なのが悔しい。二人で歩いた歩道、赤信号、標識、思い出のあの場所、この場所。そして車は気がつくと彼の家の通りに差し掛かる。徐行するようなテンポでゆっくりと進む恋の歌は、免許を取りたてのおぼつかない運転と自分の恋を重ねるように切なく響く。

以前、あるアーティストの作詞を依頼された時に「歌詞に車を出して欲しい」と言われたことがある。理由を尋ねると、地方は車移動が主なので車が出てくると共感性が高まると言われ、感心したのを覚えている。多くの人が運転中に音楽を聴くことも考えると、車と恋と歌、この三つの要素は非常に相性がいいことに気が付く。もしかしたらこの歌のヒットの理由もそこにあるのかもしれない。

「drivers license」Olivia Rodrigo
UNIVERSAL MUSIC



いしわたり淳治
作詞家、音楽プロデューサー。1997年、バンド「スーパーカー」のギタリストとしてデビューし、すべてのギターと作詞を担当。現在までに600曲以上の楽曲を手がけている。