2021.10.12

オタクっぽさの極北をいくラッパー、タイラー・ザ・クリエイター【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】

「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する連載がスタート。今回はどんな話が飛び出すのか?

オタクっぽさの極北をいくラッパー、タイラの画像_1

今回のアーティスト&楽曲


『CALL ME IF YOU GET LOST』
Tyler, The Creator


Sony Music Entertainment


一過性の流行と言われながら、今やロックを超えるメジャーな音楽ジャンルになったヒップホップ。しかし相変わらず誤解されやすい音楽であり続けている。最大の誤解は、アメリカの黒人街では常に道端でフリースタイル・バトルが行われていて、その勝者こそがレコードデビューしていると思われていることだ。それは妄想! 実際は、自宅で作った曲をネットにアップして、評判を呼んだラッパーが契約を勝ち取っているのだから。つまりヒップホップは、ロックよりはるかにインドア派かつオタクっぽい音楽なのだ。

現在、そのオタクっぽさの極北をいく男がタイラー・ザ・クリエイターだ。1991年ロサンゼルスで生まれた彼は両親から育児放棄され、祖母の家で育てられた。その祖母から買い与えられたパソコンでYouTubeとポルノ(日本のぶっかけ物のマニアだという)にハマったタイラーは、小中高の12年で12回の転校を繰り返す問題児に。しかし転校のたびに友人を増やしていき、ヒップホップ集団「オッド・フューチャー」を結成。2008年にはミックステープ(ダウンロード可能な無料アルバム)をネット上で発表して、レコード契約の獲得に成功したのだった。だが暴力的かつ猟奇的なリリックは危険視され、そのヤバさは英国から入国禁止をくらうほどだった。

しかし変態であると同時に真摯な音楽家でもあるタイラーはソロアルバムを発表するごとに自身のサウンドを研ぎ澄ませていき、2019年の『IGOR』では何と山下達郎「FRAGILE」をカバー。リリースしたばかりの最新作『コール・ミー・イフ・ユー・ゲット・ロスト』では、ボサノヴァやラヴァーズロックを取り入れるなど、さらに進化した姿を見せている。今回はリリックも切なくてイイ。ちなみにタイラーは、夜は眠くなってしまうのでレコーディングは朝から夕方までしか行わないそうだ。子どもか!



長谷川町蔵
文筆家。とてもわかりやすいと巷で評判の、大和田俊之氏との共著『文化系のためのヒップホップ入門1〜3』(アルテスパブリッシング)が絶賛発売中。


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