2021.09.17

「フライト・アテンダント」は新感覚の巻き込まれ型サスペンス【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】

動画配信サービスでドラマを楽しむ人が増えている。ハマってしまい、朝まで観てしまうという人も…。そんな魅力あふれる作品の中からおすすめの1本を紹介する新連載。今回はサスペンスドラマの「フライト・アテンダント」だ。

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殺人容疑をかけられたヒロイン! 新感覚の巻き込まれ型サスペンス

二日酔いで目覚めると、隣には死体が横たわっていた…! そんな物語の出だしは過去幾度となく使われてきたお馴染みのものだ。HBO Maxオリジナル作品「フライト・アテンダント」も、平凡な客室乗務員キャシーが一夜を共にした男の死体を発見し慌てふためくところから始まる。いわゆる「巻き込まれ型サスペンス」であり、設定としてはヒッチコック以来の定番中の定番とも言える。

まず、このドラマの軽快なトーンを決定づけているのは、何と言っても主演ケイリー・クオコの放つ陽性の魅力だろう。大人気コメディドラマ「ビッグバン★セオリー〜ギークなボクらの恋愛法則」では、オタクな男たちに翻弄される隣人の女性を演じて笑いを誘ったクオコだけに、コメディエンヌ的センスは一級品。ビビったり怒ったり泥酔したりと、クルクル変わる表情を見ているだけで楽しくなる天性の輝きは、古くはゴールディ・ホーンやキャメロン・ディアスらに近いかもしれない。

さて、殺人の容疑をかけられた主人公キャシーは、その疑いを晴らそうと素人丸出しの捜査を進めていく。これまたよくある展開なわけだが、「事件の真相」と「ヒロインの運命」以上に、主人公自身の過去にまつわるある問題が次第にクローズアップされるあたりから、物語はひと筋縄ではいかなくなってくる。

パーティ、男、酒が大好きなキャシーは、一見悩みなどなく自由な生活を謳歌しているように見えるが、誰もがそうであるように内面には誰にも言えない苦痛を抱えている。死んだ男の幻影との会話や、フラッシュバックする子ども時代の記憶を通して、視聴者はキャシーが本当はどんな人間なのかをゆっくりと理解し、共感していくのだ。今作は事件の意外な展開にハラハラさせられる娯楽作である一方、一人の女性が初めて自分と本当に向き合う自立のドラマでもある。ただ右往左往してキャーキャー言うだけの旧型のサスペンス・ヒロインとは違う、実在感ある女性像こそ今作の真の魅力だと思う。定番のようで実は違う、新鮮な面白さに夢中になれるオススメ作である。


「フライト・アテンダント」
製作総指揮/グレッグ・バーランティほか 出演/ケイリー・クオコ、ミキール・ハースマン

人気作家クリス・ボジャリアンによる原作小説を映像化したサスペンス。殺人の容疑者となった客室乗務員が巻き込まれる騒動を描く。主演ケイリー・クオコは共同製作総指揮も兼任。U-NEXT「フライト・アテンダント」全8話配信中。



宇都宮秀幸
編集者・ライター。ネット配信作品のレビューサイト「ShortCuts」などで海外ドラマの紹介記事を執筆中。TBSラジオ「アフター6 ジャンクション」出演。


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