2025.12.07
最終更新日:2025.12.07

【大人が知っておくべき時計の豆知識】2025年は小ぶり&ジェンダーレス化が進行。サイズから考える時計進化論

大きくなったり、小さくなったり、厚くなったり、薄くなったり…、時計のケースサイズは、時代の嗜好性を映す鏡でもあるのだ。

1950年代|ダイバーズウォッチで時計は大型化

ダイバーズウォッチで時計は大型化 イラスト

ケースサイズの向こうにある
ブランドの熱意を読み解く

 時計のサイズは何で決まるのか? 例えばドレスウォッチなのか、ダイバーズウォッチなのか。それだけでもケースサイズに違いが生まれる。さらには搭載するムーブメントの直径や厚みもケースサイズに関係する。パーツ点数の多い複雑な機構であれば、ムーブメントも大きく、ケースも大きくなるのは当然であり、シンプルな機構であればその逆だ。

 また独自性や機能性を追求するために、あえてケースが極端に巨大化する場合もある。ダイバーズウォッチの名門ブランパンは、水中探査用の高性能ツールとして、2011年に「X ファゾムス」を発表した。機械式の水深計を内蔵したそのケース径は、なんと55・6㎜もあるのだが、精密な潜水機器と考えれば、むしろ安心なサイズとも言える。暗い深海では、小さな時計はちょっと心もとない。むしろ手元でアピールする超巨大な機械があるほうが自然だ。

 ケースのサイズには必ず理由がある。どうしてこの大きさになったのかを理解すれば、その時計の隠れた魅力も見えてくるということなのだ。

2000年代|大きく見栄えのいい「デカ厚」が人気

大きく見栄えのいい「デカ厚」が人気 イラスト

突如として巻き起こった
ケースサイズのビジネス化

 時計のケースは必然から導き出されるもの。それは事実なのだが、ケースサイズが戦略になった時代もある。それが「デカ厚」というトレンドが巻き起こった2000年代初頭だ。そのきっかけは、軍事機密の時代を経て、ようやく民生品を作るようになったパネライである。パネライは軍用時計としての適切なサイズとして45㎜前後のモデルを生産していた。それをそのまま民生品としても展開したのだが、いかにも本気の道具といった雰囲気が、新鮮な驚きとともに人々に受け入れられたのだ。

 さらに時計の製造技術が高まったことを受け、複雑機構の時計も増えた。パーツ点数が増えればムーブメントが大きくなり、当然ケースも大きくなる。その結果大きくて厚いケース、すなわち「デカ厚ウォッチ」が、時計業界を席巻することになる。

 このトレンドを巧みに取り入れたのがウブロ「ビッグ・バン」だ。2005年にデビューしたこの傑作は、ケースは大きくて厚いが、ケースバック、ミドルケース、トップケースという積層構造にすることで、立体的で美しいケースを手に入れた。単に大きくて目立つというだけでなく、見る方向によって表情が変わるという美観の価値も評価され、21世紀初頭を代表するマスターピースとなった。

 しかし“デカ厚”であればなんでもよしというわけではない。なにせ大きくて厚いケースの時計は、シャツの袖口に収まらないので、その一本ですべてのTPOを賄うことは難しい。景気が抜群によければ、時計を複数買えばよいが、リーマンショック以降は景気も不透明となり、オールマイティに使える堅実な時計が好まれるようになる。さらにリーマンショック以降に中国(と香港)が高級時計市場のイニシアティブを取るようになると、おのずと身体のサイズに適したサイズ=小径が好まれるようになる。

 結果として、パネライやウブロのような必然性のある大型ケースは別格とすると、おおむね時計のケースは小さくなる傾向にある。とはいえ、そもそも腕時計は腕にフィットしてナンボなのだから、現代の状況こそが普通とも言えるだろう。

2020年代|高品質なケースで自己満足にふける

高品質なケースで自己満足にふける イラスト

小さくとも存在感のある
時計こそが大人の嗜み

 経済的な理由もあって小径化する時計だが、ただ小さくなるだけでは、目の肥えた愛好家たちを喜ばせることはできない。ここで大きな役割を果たしたのが、ケースの加工技術やダイヤルの質感、そして多彩なカラー展開だ。

 リーマンショックからコロナ禍までの間、中国市場の伸長によって高級時計の販売は好調を維持し続けた。その期間、スイス時計協会が発表する統計では、本数ベースは縮小しつつ金額ベースがかなり伸びている。つまり、時計の高額化が進んだということなのだが、コストアップの理由の一つが、ケースやダイヤルの質感の向上にある。

 ケースの立体感やシャープなエッジの造形を作り出すために最新鋭の工作機械を導入し、美しいダイヤルカラーを表現するためにダイヤル工房を新設する。そういった小さな積み重ねによって、時計そのものの品質が向上し、けっして派手ではないが、心に染み入る美しさをもった、“クワイエットラグジュアリー”な時計が増えていった。

 その代表がパルミジャーニ・フルリエだ。規模はそれほど大きくないが、ムーブメントもケースもダイヤルも自社製造する垂直統合型のブランドで、とにかく細部が美しい。同社では、自分自身の心を満たす美しい時計であるということで、“プライベート・ラグジュアリー”と呼んでいるが、こういった時計が評価されるようになったのは、これ見よがしではなく、自分自身の満足につながればよいという成熟した気持ちの表れなのだ。

2025年現在|小ぶり&エレガントなジェンダーレス化が進行

小ぶり&エレガントなジェンダーレス化が進行 イラスト

ジェンダーレス化で
時計は買いやすい時代に

 もう一つの時計サイズの傾向はジェンダーレス化で、サイズだけでなくデザインもユニセックスな時計が増えている。女性に時計愛好家が増えたことも理由になるだろうし、事実、女性ファッション誌でも機械式時計に特化した本格派の企画も増えている。時計好きのパートナーの影響も小さくないが、アクセサリーとして楽しむ小ぶりな時計だけでなく、本格派の時計を女性自身が求めているのだ。

 これは世界的な傾向で、ブランド側でも明確にメンズ用、レディス用という形で新作を発表することは減っている。大きくても小さくても、そしてどんなデザインでも、好きな時計を選べばいい。そう、時計業界にもジェンダーレスの波が到達しているのだ。

 こういったジェンダーレスな時計は、実は40代の男子が時計を購入する際に、とても大きなメリットをもたらす。高価な時計を“自分のためだけ”に購入するのは、やっぱり気が引ける。しかしジェンダーレスな時計であれば、夫婦の共有財産=シェアウォッチとして楽しむことができるし、子どもへと継承する場合も、子どもの性別を問うことはない。つまり時計のジェンダーレス化は、UOMO読者にとって歓迎すべきことなのである。

 ではこういった観点から選ぶ、最強のシェアウォッチとは何か? 一つの答えはジャガー・ルクルト「レベルソ」である。アールデコ様式の端正なデザインは、1931年から継承される伝統的なもので、女性からも好まれるし、手巻き式ムーブメントであればサイズはコンパクトで、誰の腕にも馴染む。しかも反転するケースバック側には、メッセージなどを彫り込むこともできる。まさに仲よき二人のための時計と言えるのだ。

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