2025年7月18日、「江口洋品店 江口時計店」の2号店が渋谷パルコ3階にオープンした。高感度なヴィンテージウォッチ愛好家の間で注目を集める同店が掲げる「より気軽にヴィンテージウォッチに触れてもらいたい」という想い。その想いが形になった新店舗は、いったいどんな空間なのだろうか? ちょっぴりミーハーな腕時計&クルマ研究家のライター"みゆみゆ"こと杉森美佑が、代表の江口大介さんに直撃取材を敢行した。
渋谷パルコに現れたヴィンテージウォッチの新空間
「江口洋品店 江口時計店」は2016年に吉祥寺でスタート。2024年に渋谷区松濤にて「ECW SHOTO」として移転オープンした。時計、ジュエリー、ヴィンテージアパレルを中心とした品揃えと、時計修理工房を併設するスタイルで、業界内でも高い評価を受けてきた。
今回の渋谷パルコ店は松濤店とは異なり、予約やHOLDの受付なしで来店できる。商業施設初出店となる今回の店舗は、より多くの人にヴィンテージウォッチの魅力を伝える場として位置づけられている。
代表の江口さん(右)と、スタッフのみなさん。ミニマルな空間では、カジュアルな雰囲気の中でゆっくりと時計を吟味できる。この空間の全景は、ぜひ実際に足を運んで体感してほしい。
みゆみゆ:渋谷パルコ店オープンおめでとうございます! 松濤店とは全然違う雰囲気ですね。ソリッドなムードでとっても素敵。
江口さん:ありがとうございます。松濤店は落ち着いてじっくり選んでいただく空間でしたが、こちらは予約もお取り置きもなしで、入場規制もせず、ふらっと立ち寄った時に「これだ!」と感じる一本に出会ってほしい。そんな店づくりを心がけました。
みゆみゆ:同フロアにあるCDGやイッセイミヤケとの親和性も意識されたとか?
江口さん:そうです。内装は松濤店に続いて二俣公一さんに、店舗のウェアデザインはホワイトマウンテニアリングの相澤陽介さんに、盆栽はトラッドマンズボンサイさんにご協力いただいて、“日本人らしい時計屋”を意識しました。盆栽は毎週水曜、店頭に飾っているものを入れ替えています。今回の盆栽は樹齢300年と200年のスペシャルなもの。
取材時に展示されていた盆栽は上が樹齢300年、下が樹齢200年。なんだか縁起が良さそう。
みゆみゆ:300年⁉︎ 盆栽を鑑賞しにくるだけでも価値がありますね。盆栽とヴィンテージウォッチ、時間の蓄積と偶然の出会いを愛でるという点では、通じるものがある気がします。
江口さん:そうなんです。たとえば、たまたま立ち寄った旅先で時計を買ったとか、偶然の出会いが価値を持つようになるのもヴィンテージの魅力だと思うんですよね。だからこのお店も予約を設けず、取り置きもしない。一期一会を大事にしたくて。
「気軽さ」と「本格性」の両立
ロレックス デイトジャスト ¥877,800
みゆみゆ:とはいえ、ヴィンテージって、知識がある人だけが楽しめる世界のようなハードルの高さがありますよね。何年のこの時期の、素材がこれで、といった知識やウンチクを知っておかなきゃいけないと、なかなか手に取りづらいイメージがあります。
江口さん:ありますよね(笑)。もちろんより時計選びが楽しくなることに間違いありませんが、そんな高尚なイメージを変えたくて。松濤店はハイエンドなものが中心でしたが、渋谷店は複雑なことを考えなくていい、最もスタンダードで手に取りやすいモデルを揃えています。
カルティエ マストタンクSM ¥305,800
みゆみゆ:ちなみに、価格帯はどれくらいですか?
江口:例外もありますがトップレンジで約50万円ほど。ここに来店されるお客様には、リセールバリューで購入を考えるのではなく、自分のスタイルや感性にフィットする1本に出会ってほしい。ファッションの延長線として時計を選ぶ感覚でいいと思っています。
みゆみゆ:知識じゃなくて、センスで選んでいいんだって思えるだけで、すごくハードルが下がる。時計初心者のわたしも、すっかり安心して物欲のスイッチが入りました(笑)。
IWC オールドインター ラウンドケース ¥481,800
みゆみゆ:となると、気になるのはブランドですが、具体的にどんなものが並んでいるんですか?
江口さん:カルティエやロレックス、オメガ、エルメス、セイコー等々……。エターナルな名作から、ちょっぴり玄人受けするようなマニアックなものも取り揃えています。
(左)スウォッチ トレゾールマジック ¥437,800(中)ジン パイロットクロノグラフ ¥547,800(右)リップ マッハ2000 ¥184,800
みゆみゆ:このLIP、レトロなデザインがキャッチーですね! こういう“知ってる人は知ってる”デザインって、時計好きの心をくすぐりますよね。
江口さん:これはまさにプロダクトデザインとして完成された1本です。比較的リーズナブルで手に取りやすい価格。2,3本目に購入するのもいいのではないでしょうか。
みゆみゆ:取材中にも関わらず、思わず本気のお買い物モードになってしまう素敵なラインナップですが……。なかでも江口さんがUOMO読者にオススメするのはどういった時計ですか?
江口さん:UOMOの読者さんのイメージは、ニッチなものがお好きな方や、品のあるエターナルなものがお好きな方のイメージがあります。
みゆみゆ:江口さんのおすすめの3本、教えてください!
1本目|LIP マッハ2000 スクエアケースデイト
リップ マッハ2000 ¥184,800
江口さん:1970年代に生まれたとは思えないデザインのLIP。他ブランドが似たものを出すと、「LIPのパクリじゃん」と言われてしまうくらい完成度が高い。70年代に生まれていたという事実には、もはや敬意しかないです。
みゆみゆ:プロダクトデザインとしての完成度、たしかに圧巻! 時計を身につける、というより、もはや展示する感覚に近いかもしれませんね。デザイナー職の方には特に刺さる気がします。
2本目|Cartier サントスロンド サントスオクタゴンLMデイト
カルティエ サントスオクタゴンLMデイト¥591,800
江口さん:カルティエといえばコンビ、というイメージがある方も多いと思いますが、今回はあえてステンレススチールを推したい。80年代はコンビが主流だったため、ステンレスは流通量が少なく、今となっては希少性が高いんです。
みゆみゆ:コンビの華やかさも素敵だけど、ステンレスならではのソリッドなムードは日常使いにも自然になじみますよね。フレンチシックなシャツが似合いそう。
3本目|Cartier マスト ドゥ カルティエ マストタンクSM
カルティエ マストタンクSM ¥305,800
江口さん:結局僕、マストが好きなんですよね(笑)。これが僕の時計沼の原点。20代の方が初めて時計を買うとき、マストが候補にないなんてありえない! と思うくらい思い入れがあります。40万円前後でこのカルティエの美しいデザインが手に入るって、冷静に考えて奇跡でしかない。
みゆみゆ:だれもが一度は手に入れたいと思う、タイムレスな1本ですね。一緒に時を刻んでいく、という言葉が一番似合うかも。
時計だけじゃない、ヴィンテージジュエリーの魅力
みゆみゆ:ジュエリーも充実してますね!
江口さん:はい。カルティエやエルメスを中心に、18金の希少性のあるアイテムをセレクトしています。
みゆみゆ:喉から手が出てしまいそうになるほど欲しいものが目の前にありますが、ぐっと堪えます……。今日は仕事、今日は仕事……。
江口さん:一度廃盤になったものは絶対に再販しないという決まりを設けているブランドもあるんですよ。もう買うことができないものが手に入るのも魅力のひとつ。金も値上がりする一方ですし、ヴィンテージは一期一会。買いたい時が買い時ですよ!(笑)
江口さんのお手元をキャッチ。シルバーの質感を揃えたり、焼けたダイヤルのカラーとマッチするバングルやシグネットリングを合わせたり、リンクさせるのがお上手!
みゆみゆ:心を無にしてスルーしようとするほど、心に響くセリフ(笑)。でも、目の前のものに惑わされずに冷静になると、やっぱり気になるのは全体のバランス。たとえば、時計とジュエリーのレイヤードが上手な男性って、それだけで3割増しで素敵に見えてしまうんですよね(笑)。一方で、やりすぎるとトゥーマッチでいやらしく、セルフプロデュースの渋滞にもなりかねない。その塩梅が難しいなって。
江口さん:時計の素材や色味と合わせたり、華奢なものをレイヤードさせたり、インパクトのあるものを1点だけ取り入れたり……。正解はないので、マイスタイルでいいと思います!(笑)。
洋服をメインに考える、時計選び
「ユナイテッドアローズ&サンズ 渋谷」の入口にある「ブルックス ブラザーズ×ニート」の展示スペース。
みゆみゆ:そういえば、コンセプトストア「UNITED ARROWS & SONS SHIBUYA(ユナイテッドアローズ&サンズ 渋谷)」のオープンも同日でしたね! オープンに合わせて、江口時計店からも何本か提案されているとか……。
江口さん:そうなんです。ちょうどBrooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)とNEATのコラボがお披露目になるタイミングだったので、そのお洋服と相性の良い時計を意識したセレクトも提案しています。
オメガやジャガー・ルクルト、カルティエ、IWCなど、デイリーに使いやすいモデルがラインナップ。
みゆみゆ:実直な時計選びをしている人って素敵に見えてしまうんですよね。ラグスポ系を着けている方ももちろん素敵ですが……。デイリーにガシガシ使える時計を選択できるマインドに惹かれているのかも。そう思っているのは、きっと私だけじゃないはず!
購入後も安心のサポート体制
みゆみゆ:時計初心者が新品よりヴィンテージを購入しづらいという理由のひとつに、アフターメンテナンスの面倒臭さと心配があるように感じます。
江口さん: そこもご安心ください。うちは修理工房を併設しているので、購入後のオーバーホールやメンテナンスはもちろん、壊れたパーツを一から作り直すような補修も可能です。ヴィンテージウォッチは買って終わりじゃなくて、育てていくもの。だからこそ、気軽に相談できる行きつけのような店として頼っていただけたら嬉しいです。
限定アイテムをチェック!
みゆみゆ:オープン記念の特典も気になります。マカロンみたいなフォルムのこちらは?
江口さん:ご来店いただいた方にお渡ししている、オリジナルウォッチポーチです。いつもならシックなデザインやカラバリにするのですが、今回はあえてポップなカラーリングにして、ファッション性を重視しました。ポーチは領収書入れにもオススメです。スタッフ全員の推し!
江⼝洋品店 江⼝時計店×HERGOPOCH 各¥29,700
ポーチの内側にはヴィンテージのエルメス「カレ」が使用されている。
みゆみゆ:こういう気が利いたアイテムってなかなかないから嬉しいです。
江口: さらに、HERGOPOCHとのコラボレーション商品も渋谷パルコ店先行で販売しています。ポーチとしてはもちろん、首から下げてバッグのように使うのもオススメですよ。
ソックス/CONLEAD 各¥3,300
みゆみゆ:このソックスも可愛い! レースになっているんですね。
江口:CONLEAD (コンリード)のレースタイプ、すごい人気なんですよ。他にもシルクを用いたプレーンタイプの2型をご用意しています。淡路島にあるNEATの西野さんのお店「N&N STORE」でも展開されていて、ファッション感度が高い方から注目されているそうです。僕はプレーンタイプを愛用しています。
江口さんが描く、ヴィンテージ時計のこれから
みゆみゆ:取材にお伺いしたはずなのに、思わずお買い物してしまうところでした……あぶないあぶない。最後に、今後の展望を教えていただけますか?
江口:もっと多くの方にヴィンテージの魅力を知ってほしいですね。僕自身、新品の時計をみる機会や購入することももちろんあります。でも、新品の半額で買えることもあるし、背景や時代性がある分、ヴィンテージの魅力は計り知れません。ヴィンテージの洋服が好きになるのと、同じなんですよ。松濤店と渋谷パルコ店、それぞれ違った魅力があるので、ぜひ両方足を運んでいただけたら。
みゆみゆ:ありがとうございました! 私も今日、取材という名目でちゃっかり下見をしてしまいました。いつも正しい買い物をしたいと思っているけれど、本当に欲しくなるのは、予定外の出会いにあり、ですね。そう思わせてくれるお店が、またひとつできてしまいました。
みゆみゆ’s NOTE
25mmのレディースモデルですが、男性がブレスレットのように着けてもきっと素敵。
次に買うのは絶対にジャガー・ルクルトと心に決めていたにも関わらず、思いがけず恋に落ちた70年代のロレックス オイスターパーペチュアルデイト。時計の魅力って、やっぱり“知ること”より“出会うこと”なのかもしれません。この夏、あなたも渋谷パルコで自分だけの1本を探しに訪れてみてはいかがでしょうか?
メンズファッション好きが高じて編集の道へ進んだはずが、なぜか女性誌でファッションを担当することに。現在は独立し、昔から心を奪われ続けているクルマと腕時計の世界を、もはや趣味なのか仕事なのかわからないまま探求中。重ね着は苦手で年中薄着派。ぎっくり腰がきっかけでランニングにハマり、ひそかにハーフマラソン出場を目論んでいる。