2025.07.15
最終更新日:2025.07.15

【大人の名品時計】パテック フィリップ「カラトラバ」はなぜ人気? 腕時計のプロが解説。スタイリストの私物紹介も!

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_1

世界最高峰の時計ブランドと称され、服のプロたちからも注目を集めるパテック フィリップ。なかでも、現代のドレスウォッチのお手本と呼ばれる「カラトラバ」はなぜ人気なのか? その理由を、時計ジャーナリストの篠田哲生が解説する。

パテック フィリップが最高峰たる理由

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_2
カラトラバ 6196P ¥7,460,000

世の中には“名品”という枠を超え、もはやデファクトスタンダード(事実上の標準)と呼ばれるものがある。バッグであればエルメス「バーキン」、スニーカーならコンバースの「ジャックパーセル」、自動車ならフォルクスワーゲンの「ゴルフ」などがその代表だろうか。ジャンルそのものを象徴するものであり、流行り廃りとは全く別の次元に位置しているものだ。

そしてドレスウォッチの世界においては、パテック フィリップ「カラトラバ」こそが、揺るぎなきデファクトスタンダードとなっている。

 「カラトラバ」を語る前に、まずはパテック フィリップについて説明しよう。1839年という創業年は、スイス時計の世界ではそれほど古いわけではなく、技術面においても何をもって”最高峰“と呼ぶかの基準は、人によって異なるだろう。しかしパテック フィリップだけが唯一無二なのは、揺るぎない一貫性である。そしてそれは、家族経営によるところが大きい。

アントワーヌ・ノベール・ド・パテックによって創業され、その後ビジネスパートナーにジャン・アドリアン・フィリップを迎え、1851年に社名をパテック フィリップ社に変更。その後はパテック家とフィリップ家の末裔によって経営されていた。そして20世紀初頭に経済危機に陥った際に、長年サプライヤーとして信頼関係を結んできた文字盤会社を経営するスターン家に経営権が移り、1932年以降はスターン家がパテック フィリップの経営を行っている。

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_3
スターン家は、世代から世代へと経営権を継承しながら、パテック フィリップの価値とノウハウを守ってきた。

歴史あるブランドの多くは、ブランド名のみが継承され、経営母体は資本家やラグジュアリーコングロマリットによって移り変わる。もちろん、どのブランドも歴史や伝統の継承には力を入れているが、「仏作って、魂入れず」な状態になっている場合もあるだろう。

その点パテック フィリップは、独立資本による家族経営を貫いているため、戦略にも技術にも、そしてデザインにも揺るぎない一貫性がある。それこそがパテック フィリップを最高峰たらしめるものなのだ。

奇をてらわない、ドレスウォッチのお手本

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_4
スタイリストのオクトシヒロさんが愛用する、カラトラバの3923。

スターン家によって再始動したパテック フィリップは、商品構成を見直し、デザインコードの統一を進めた。その中で生まれたのが「カラトラバ Ref.96」だった。そしてこのモデルをきっかけに自社ムーブメントへの回帰を進める。それまでのパテック フィリップはルクルト(現ジャガー・ルクルト)のムーブメントを購入し、モディファイして使用していた。しかし独自性を高めるために、自社製ムーブメントの開発に着手したのだ。つまり「カラトラバ」は、パテック フィリップが更なる高みを目指す第一歩だったといえる。それは「カラトラバ」という名称からもわかる。これは同社のエンブレムであるカラトラバ十字から命名されたもので、それだけ大切なコレクションというわけだ。

 

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_5
スタイリストの小林新さんが愛用する、カラトラバの3919。

「カラトラバ」のデザインは奇をてらわない。時を知らせるという役割を完璧に表現するための、端正なラウンドケースと視認性を重んじた明確な針とインデックスは、バウハウスが提唱した「形は機能に従う」という機能美の考え方に強く影響を受けている。これ以上足すものも引くものもない。それこそが「カラトラバ」であり、いつしか“ドレスウォッチのお手本”と呼ばれるようになった。

王道スタイルは崩さず、多様性に応え続ける

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_6
カラトラバ 5226 ¥6,770,000

カラトラバの魅力は、その多様性にもある。ケースサイズ、針やインデックスの形状、ベゼルの仕上げ、そしてセンターセコンド、二針、スコールセコンドといった針数も含め、多彩なバリエーションが揃っている。しかも4桁のリファレンスナンバーで管理されているため、番号で通っぽく語れるのも、こだわりのUOMO読者には魅力だろう(この辺りは、ポルシェ911やリーバイスにも通じるところがある)。

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_7
カラトラバ 6007 ¥6,360,000

ちなみに現行のカラトラバの場合、色を利かせたスポーティな中三針モデルの「カラトラバRef.6007」は自動巻きムーブメントでケース径は40㎜。センターセコンドの「カラトラバ Ref.5227」は自動巻きムーブメントを搭載して、ケース径は39㎜。そして2025年の最新作となる「カラトラバ Ref.6196P」は、手巻きムーブメントを搭載し、ケース径が38㎜。初代となる“96”の系譜を受け継ぐ本家本流のスモールセコンドモデルとなる。

このように王道のスタイルを継承しながらも、ユーザーのニーズに合わせてバリエーションを広げていく点も、カラトラバが人気を集める理由である。

腕時計のプロがおすすめする「カラトラバ」

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_8
カラトラバ 6119 ¥5,370,000

では、個人的なおすすめのモデルは何か? 私なら「カラトラバ Ref.6119」を挙げたい。ベゼルには伝統的なクルー・ド・パリ仕上げを取り入れることで華やかにキラッと輝かせ、ダイヤルの表面の縦ヘアラインがモダンさを演出する。定番のスモールセコンド式で、搭載ムーブメントは大型ブリッジが非常に美しいCal. 30‑255 PS。約65時間のロングパワーリザーブなので、フル巻きにしていけば2日ほど使わなくても時計は止まらない。これは複数の時計を所有する人には嬉しいスペックである。

 「カラトラバ」は良い意味で“普通のドレスウォッチ”だ。それは平凡であるからではなく、このモデルが現代のドレスウォッチのお手本であるから。そうとなれば、皆に愛されるのは当然といえるだろう。

篠田哲生プロフィール画像
腕時計ジャーナリスト
篠田哲生

時計の機構や技術にも精通しており、スイス時計取材歴は20年近くに。時計は新しいほうが好きで結構ミーハー。

服のプロたちが「カラトラバ」を選んだ理由

スタイリスト オクトシヒロさんの場合

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_9

シンプルなのにTイチのアクセントにもなる存在感

「6~7年前に、ふとシンプルでいい時計が欲しいなと思って、色々と物色していました。僕はオタク気質でもコレクターでもないのですが、調べるなかで、1本持っておけば永遠に使えそうなブランドは何かと考えたときに、やはりパテック フィリップはハズせないだろうと。もちろん資産にもなるので手放すことがあってもリセールバリューもいい(笑)」

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_10

「これはカラトラバの『3923』という90年代にしか作られなかったモデルで、なかなかこの状態で出てくることがなかったので選びました。丸みのある、肩の力を抜いたようなケースデザインが自分の好みに合っているし、カラトラバらしいエッセンスも持ち合わせていると思ったのが印象に残っています。とにかく、魅力は小ぶりでシンプルなところに尽きますね。3針ではないですが、スモールセコンドが付いてこのシンプルさというのは、なかなかないんじゃないかな」

スタイリスト 小林新さんの場合

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_11

モノとして美しく感じるかどうかが大事

「今から10年ほど前ですが、自分が所属する事務所の社長が私物のカラトラバを見せてくれたんです。その美しさに感動して『いつか自分も買えたら…』と思っていました。この“3919j”は1991年から92年頃に製造されたモデルで、社長に見せてもらってから10年越しの思いでやっと手に入れることができました。カラトラバはドレスウォッチの最高位なので、カジュアルな着こなしが多い自分とのギャップを楽しめるのが魅力。もちろんモノとして見ても、シンプルを極めたデザインが心底美しいです」

【大人の名品時計】パテック フィリップ「の画像_12

「モノを選ぶ際は、その歴史や存在する意味を考えるのが好きです。カラトラバはとにかく見ていて美しいし、着けても佇まいが素晴らしい。自分はかつて『大人になったら時間を大切にするために時計を着けなさい』ととある方に教えられたことがあって、そこから時計を着けるようになりました。時計には実用的側面がありますが、ロマンもあるわけで、そうした理由で着こなしには必ず時計を入れるようにしています」

RECOMMENDED