2025.05.04
最終更新日:2025.05.04

【Cartier】カルティエ「タンク」はなぜ人気? その魅力とは? 腕時計と服のプロが解説&おすすめモデルも紹介【大人の腕時計】

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40代のおしゃれな大人たちからも支持率の高いカルティエの腕時計「タンク」。タンキストという言葉を生み出すほどに愛される理由は何なのか? まずは時計ジャーナリストの篠田哲生が人気の理由を解説する。

タンクはパリの文化的シンボル

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先月、久しぶりに時計の仕事でパリに行った。シンボリックな「エッフェル塔」、ガラス張りのパビリオン「グラン・パレ」、荘厳な「アレクサンドル3世橋」、そして現在は美術館として使用される「オルセー駅」などは、1889年を皮切りにパリで何度も開催された万国博覧会に合わせてつくられたもの。誕生から約100年を過ぎた今でもパリの顔であるこれらは、強大なフランス国家の歴史や文化を伝えるものでもある。

そしてカルティエの「タンク」もまた、約100年前から受け継がれてきた、フランスやパリの文化的シンボルと言えるだろう。

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パリのモントルゲイユ通り29番地。ここにあった師匠アドルフ・ピカールのアトリエを、初代ルイ・カルティエが1847年に継承することで、ブランドが始まる。現在は高級ブランドのブティックや飲食店が立ち並ぶ華やかなエリアだ。

フランスは、かつて最高峰のテクノロジーであった機械式時計の分野でもリードする存在で、フェルディナント・ベルトゥーやアブラアンールイ・ブレゲといった天才時計師が国家プロジェクトとして時計の研究開発に携わった。しかし強大な国家であるがために、マリンクロノメーターなど計測機器としての時計開発に力をいれており、市民用の時計製造という点では小国スイスが先んじていた。

そんな時代に、三代目のルイ・カルティエが腕時計の製造を始める。宝石商であったカルティエは、20世紀初頭から宝飾技術を生かして革新的なフォルムをもつ美しいケースを開発。そこにスイス製のムーブメント(おもにジャガー社、現ジャガー・ルクルト)を収めることで、美しい腕時計を次々と生み出していった。

実用品ではなく、ファッションアイテム

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1917年にプロトタイプが製作され、その2年後に発売された「タンク」は、まさにフランスを、そしてパリを表現する時計だ。直線的なケースデザインとケースにつながるようにデザインされたストラップは、上から見た戦車(タンク)の形から着想を得たといわれる。

この時代のパリでは「アールデコ」と呼ばれるデザイン様式が生まれた。これは工業製品としての製造効率と贅沢品らしい芸術性の中間にあるもので、腕時計のデザインにも取り入れられた。「タンク」のデザインはその典型であり、だからこそデザインはいつまでも古びることはない。時代をリードする工業国であり、芸術を愛する国フランスだからこそ生まれた時計。それがカルティエ「タンク」なのだ。

 戦車という男らしいルーツとパリらしいエレガントなデザインが融合した「タンク」は、多くのセレブリティを魅了した。彼らは「タンキスト」と呼ばれ、時計を実用品ではなく、ファッションとして楽しんだ。すなわち現代の時計の楽しみ方をいち早くリードしていたのが、タンクの愛好者たちだったのだ。

 

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Andy Warhol. photo Jack Mitchell

では、なぜタンクはファッションだったのか? それは、かのアンディ・ウォーホルの「時間を知るためじゃない。身に着けることに意味があるんだ」という言葉が端的に示している。彼は時計の針を合わせるどころか、ゼンマイを巻き上げることもなかったという。つまり美しい時計には、時計以上の価値があるということだ。時計でありながら、時刻を知るためではなく、それをつけることを楽しむ。バラドキシカルだが、タンクはそれを証明している。こんな時計に惹かれない人がいるのだろうか?

タンクを選ぶといっても、その選択肢は広い

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「タンク ルイ カルティエ」ウォッチ ¥2,059,200

過去にさまざまなモデルを生み出してきた「タンク」だが、現在のファミリーは四種。初代モデルからの伝統を継承する王道が「タンク ルイ カルティエ」で、ケース素材にゴールドを使用するのが特徴。薄型のケースデザインを生かすため、手巻き式ムーブメント、もしくはクオーツ式ムーブメントを搭載する。2024年、ついに自動巻きを搭載したラージモデルが発表された。

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「タンク マスト」ウォッチ ¥544,500

1970~80年代のポップなムードを取り入れる「タンク マスト」は、普遍的なデザインに挑戦的なスタイルを加えた。ケース素材はステンレススティールで、ブルーやレッド、グリーンといったカラフルなダイヤルや高性能クオーツムーブメントなどを取り入れている。

さらに縦長ケースの「タンク アメリカン」やメタルブレスレットを取り入れたモダンデザインの「タンク フランセーズ」という選択肢もある。さらにはサイズバリエーションも豊富だ。

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「タンク フランセーズ」 ウォッチ ¥737,000
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「タンク アメリカン」 ウォッチ ¥1,821,600

タンクを選ぶといっても、その選択肢は広い。小ぶりなサイズをスーツに合わせるのも良いだろうし、大き目のXLサイズならカジュアルさがある。ファッション関係者の間では、NATOストラップを組み合わせてスポーティに楽しんでいる人もいる。その自由さもまた、タンクの魅力となっている。

現代のタンキストに一押しの一本

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「タンク マスト ソーラービート™ 」ウォッチ ¥544,500

では数あるモデルの中で何を選ぶべきか? その答えは時計好きの中でも大きく割れる。しかし個人的には「タンク マスト」の光起電発電ソーラービート・ムーブメントを搭載したモデルに注目している。そもそも光発電技術は、比較的カジュアルな時計に用いられることが多い。これは発電するソーラーセルに光を当てるためにはダイヤルを透過するしかなく、高級感を引き出すのが難しいという理由があった。しかしカルティエはダイヤルに微細なパンチング加工を施すことで、伝統的なタンクのデザインを残したまま、ダイヤルの下にあるソーラーセルに光を届かせて時計を動かすことができる。しかもムーブメントは長寿命設計で、発電した電池を貯めるための二次電池の交換は、少なくとも16年後だという。

100年を超える歴史あるマスターピースでありながら、しっかり進化を楽しめるというのが、現代のタンキストにおすすめの理由だ。

篠田哲生プロフィール画像
腕時計ジャーナリスト
篠田哲生

時計の機構や技術にも精通しており、スイス時計取材歴は20年近くに。時計は新しいほうが好きで結構ミーハー。
 

服のプロが考える「タンク」の魅力

ファッションの視点から見ると「タンク」はどう映るのか。ヴィンテージの「プレマストタンク」を愛用しているスタイリストの小林新に、タンクの魅力と40代男子がおしゃれに着こなす秘訣を聞いた。

タンクって、その存在自体が唯一無二。戦車をモチーフにしたというデザイン性や、最初期の腕時計とも称される歴史的背景など、すべてが個性を放つんです。

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三村晋司さん / 会社員 「フラットでシンプルなフェイスとモダンな文字盤に惹かれました」。シックなレクタングルと、鮮やかなイエロースウェットのコントラストが目をひく。

しかもドレスウォッチとしてはもちろん、カジュアルな装いにも自然にマッチするのが大きな魅力。タンクはドレス寄りでもなければ、スポーツ寄りでもない。だからこそ、セットアップに合わせても良いし、Tシャツやラフなスタイルにも不思議なくらい違和感がないんです。

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菅原周介さん / 会社員 「生まれ年である1990年製のマストタンクは、偶然立ち寄った時計屋さんで出会って、即購入。時計のムードに合わせてスカーフを巻き、落ち着いた印象に」。

僕が購入した頃は女性っぽいと見られることもあったけど、実際はどんなファッションにもすっと溶け込んでくれるから使いやすい。薄さやシンプルさもポイントで、ハズシというより自然に合わせられます。最近は男性が小さいサイズをつけるのがトレンドになってきていて、パートナーとシェアする方も増えているし、まさに時代に合った腕時計だと感じますね。

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横井 武さん / 販売員 「10年前に購入したマスト ドゥ カルティエは、ちょうどよいサイズでとても気に入っています。ゴールドの色味は、夏服に上品さを加えてくれますね。最近まで純正のベルトを使っていましたが、より自分のスタイルに合うよう軍モノのナイロンベルトに変えました」

服のプロがおすすめする、最初の「タンク」

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「タンク ルイ カルティエ」ウォッチ ¥2,059,200

僕のおすすめは「タンク ルイ カルティエ」のラージモデルです。イエローゴールドで、手巻きのムーブメントを積んでいて、しかも文字盤がボルドーっぽいカラー。昔のタンク マストにも通じる雰囲気があって、現行でこれを買えるのは本当に特別だと思います。

価格は高めですが、人と被りにくいし、ベルト交換でまったく違う表情にもなるから飽きがきません。フォーマルからカジュアルまで幅広く楽しめるのも魅力です。ヴィンテージ好きな方にも納得される仕様だと思いますし、腕時計好きとしても満足度は高い一本です。

小林 新プロフィール画像
スタイリスト
小林 新

広告や雑誌で活躍。時計に魅せられて、30代以降はアンティークや機械式にも深く傾倒。

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