初参加の「Watches and Wonders」用に

2025年3月下旬、俺は途方に暮れていた。なぜか? 目前に迫ったスイス・ジュネーヴでのWatches and Wondersの取材に着ていくジャケットがなかったからだ。俺は自慢じゃないが極端なジャケット弱者で、スーツはさておき、ラペル付きのジャケットを単体で着ることはほぼない。持ってないし。しかし初参加となるこの時計のイベントは、通いなれたパリやミラノのファッションウィークとはかなり雰囲気が異なり、ジャケットやセットアップを着たほうがいいんだという。郷に入っては郷に従え。俺はジャケットを探すことにした。
仕事の合間に表参道でギャルソンやコモリやレショップのお店をのぞき、週末には、約2年ぶりに白金のビオトープに足を運んだ。でも、これはという一着が見つからない。しかしデッドラインは近づいている。やむを得ずオンラインでの捜索に切り替えたところ、真っ先にヒットしたのがアプレッセのジャケットだった。ウールの黒で、ややオーバーサイズのダブルブレステッド。そうか、ダブルという存在を忘れていた。カジュアルな服が多い俺には、オーソドックスなシングルより、ファッション感の強いダブルのほうが合うかもしれない。現物を置いてそうなお店に心当たりはないから、試着はできない。ジャケットなのに。でも今買えば明日には届くから、もし着てみて失敗だった場合、ギリギリ出発前日に買い物に出ることは可能だ(アテはないけど)。ええい、ままよ…! ポチ!
4月1日、ジュネーヴ・コルナヴァン駅前のホテルからW&Wの会場に向かう俺は、コム デ ギャルソンのストライプシャツにアプレッセの黒のワイドパンツを合わせ、同じくアプレッセの黒のダブルのジャケットを羽織っていた。周りの人たちに比べるとオーバーサイズでややくだけた感じだったが、決して浮いた存在にはなっていなかった。俺は賭けに勝ったのだった。



身に着けるモノの中では365日かけているメガネが一番大事だが、気分屋で服装には一貫性がなく、白髪に合えばなんでもいい。大阪府出身。お好み焼きと立ち飲みと電車と野球が好き。
Movie&Photos:Mitsuo Kijima
Stylist:RUI