古着市場には膨大なダウンジャケットが存在する。しかし、その中で本当に価値のある「名作」とは何か。何を基準に選べばよいのか。
BEAMS PLUS(ビームス プラス)のチーフバイヤーとして、1950年代前後〜80年代のクラシックアウトドアを追い続ける金子茂さん。2025年3月に刊行されたパーソナルブック『OUTDOOR EXPEDITION BOOK 99』(世界文化社刊)では、彼が長年かけて収集した超希少なヴィンテージアウトドアアイテムのコレクションが紹介され、その知識の深さは、アメリカのユタ州立大学「Outdoor Recreation Archive」とも情報や見解を共有するほどだ。
そんな金子さんに、古着屋で出会ったら手に取るべき5つの名作ダウンを訊いた。それぞれのアイテムに秘められた歴史とディテール、そして「なぜ名作なのか」を紐解いていく。
アメリカンアウトドアの定番|ザ・ノース・フェイス 「ブルックスレンジ」
ザ・ノース・フェイスの「ブルックスレンジ」は、1970年代後半に登場したモデルで、その名はアラスカのブルックス山脈に由来する。ブランドのダウンジャケットの中でも特に完成度の高い一着として知られ、アメリカのアウトドアブランドらしい機能性を追求しつつ、都市でも着られる洗練されたシルエットが特徴だ。
「ザ・ノース・フェイスは当時、アラスカの探検とか冒険を目的に作っていたので、軽さというより丈夫さを重視しているんです。ザ・ノース・フェイスのアイデンティティである『65/35ベイヘッドクロス』というポリエステル65%、コットン35%の生地を使っているので、耐久性が高い。個人的には、この丸いベルクロがデザインとしてすごく好きなんですよね。カタログにも『巨大なベルクロ』って書いてあって。あと何より配色ですね。ザ・ノース・フェイスらしいアメリカを感じさせるツートーンがたまりません」と金子さんは語る。
古着市場では比較的見つけやすく、生産期間が長かったため数も多め。状態の良いものを見つけたら「買っておいてもいいと思います」と太鼓判を押す。
ヨーロッパの定番|モンクレール「デュベットジャケット」
ヨーロッパのアルパイン系ダウンは、アメリカより歴史が古い。モンクレールは1952年、フランスで誕生した老舗ダウンブランド。創業当初は工場労働者向けの防寒着を製造していたが、1954年にフランス人登山家リオネル・テレーとの出会いをきっかけに、登山家向けの高機能ダウンウェアの製造へと発展した。
「アメリカには登山文化はありますが、いわゆるアルパイン系のダウンウェアはヨーロッパが当時は最先端だったんです」と金子さんは語る。その中でモンクレールは、軽さを追求し、遭難時に見つけやすいカラフルな配色を採用するなど、登山に特化した設計思想を持っていた。
「ヨーロッパの昔のダウンって、基本的にポケットがないんですよ。登山中にポケットに手を入れると、そこで雪が溶けてダウンの保温力が落ちて体温が低下していくことが一番危ないから。でも、このモンクレールは左胸にフラップポケットが付いている。これが当時としては革新的だったと言われていて、モンクレールのシグネチャーデザインになっているんです」。
さらにヨーロッパのダウンの特徴として、ダブルスナップがある。「山に登って稜線に行くともうテント張れないじゃないですか。その状態で寝袋で寝るときは外側のボタンを留めて、腕を袖から抜いて胴体に入れると暖かく寝袋状態を作れる」。極限の環境下で生き延びるための、実用的な工夫が随所に見られる。
60年代のモデルには当時のブランドアドバイザーであり、登山家のリオネル・テレー氏の名前入りタグがついている。
「胸ポケットが付いてるモデルってアメリカのブランドにもあまりないし、今でもあまり見ないですよね。デザインのバランスが完璧で、どんなスタイルにも合わせやすい。あんまりパンパンではないので、中にダウンベストを入れたりとか、レイヤードで着るのがかっこいいと思います」
隠れた名品|エディーバウアー「フィッシングダウン」
エディーバウアーは1920年にシアトルで創業された、アメリカを代表するアウトドアブランド。1936年には世界初のキルティングダウンジャケットを開発し、ダウンウェアの歴史に名を刻んだ。その初期のカタログを見ると、ハンティングやフィッシングといったフィールドスポーツのための防寒着として展開されていたことがわかる。
中でも注目すべきは、フィッシング用に開発された短丈のダウンジャケットだ。「フィッシング系のダウンジャケットやベストは、ヴィンテージ市場で人気のあるアイテムなんです。特に1970年代から1990年代頃の製品には、機能的な特徴を持つものが多く見られます」と金子さんは語る。
このフィッシング用短丈ダウンの最大の特徴は、多機能ポケットだ。フライボックスやその他の釣り具を収納できるよう、胸元や腰回りに多様な形状やサイズのスナップボタン付き、またはジッパー付きポケットが多数配置されている。そして何より重要なのが、その丈の短さ。「短丈は、釣りの際に川に入って濡れにくく、動きやすいように設計されているんです。海外でもフィッシング系ジャケットは人気ですね」。
素材と保温性も見逃せない。エディーバウアーは、高品質なグースダウンを使用したダウン製品の先駆けであり、ヴィンテージのフィッシングモデルにも優れた保温性を持つものが存在する。表地にはナイロンやコットンなどが使用されており、耐久性や撥水性を考慮した設計になっている。
1960年代後半から1970年代前半頃のモデルに見られる「日の出タグ」。
ヴィンテージタグも年代によって「黒タグ」や「日の出タグ」などと呼ばれる特徴的なタグがついており、これがヴィンテージ品の識別ポイントとなっている。
「エディーバウアーのダウンジャケットは本当に隠れた名品揃いです。ダウンの元祖とも言えるブランドで、モンクレールやザ・ノース・フェイスに比べると数万円で手に入るし、掘り出し物が見つかりやすい」と金子さん。フィールドスポーツの実用性から生まれた機能美が、今の時代にこそ新鮮に映る、狙い目のアイテムだ。
ディテールの名作|アドベンチャー16「ワイドテンパラチャーレンジパーカ」
アドベンチャー16は、1962年にカリフォルニアのサンディエゴで創業したアウトドアショップ。店舗でオリジナルギアを展開していたことでも知られるが、そのなかでもダウンジャケットは特に凝ったディテールが魅力だった。現在では製造されていないため、ヴィンテージ市場でしか手に入らない希少なアイテムかつ人気も高い。
「アドベンチャー16は、今こんなダウンを作っているところがないっていうくらい、ディテールが凝っているんです」と金子さんは興奮気味に語る。「ショルダー部分だけGORE-TEXを使って、身頃は普通のリップストップナイロンとか、そういう切り替えのデザインがあったり。このベルクロも菱形でオリジナルで作ってるし、脇の下にベンチレーションが付いてたり。フードもジッパーで収納できるようになってるんです」。
さらに「このデザインが、ヨーロッパものにも近い。いいとこ取りというか、センスがいいんですよね」と分析する。サンディエゴの比較的小さなショップだったからこそ、大量生産されず、こだわりを詰め込めたモデルなのだという。
「デザイン的にも、ディテール的にも、今面白いんじゃないかな。最近いろんなところがこのダウンジャケットをモチーフに作ってたりしますね。ビームスプラスでも2〜3年前にエンドクロージングとコラボして、このモデルをサンプリングしたダウンを作ったこともあります」。見つけたら即買いレベルの逸品だ。
知る人ぞ知る逸品|スノーライオン「エクスペディションパーカ」
スノーライオンは、1970年代にアメリカ西海岸で生まれたアウトドアブランド。当時の西海岸アウトドアムーブメントを象徴する存在として、コアなファンに支持されてきたが、現在ではほとんど市場に出回らない幻のブランドとして知られている。
製品の多くは台湾製で、70年代当時、アメリカの工場からアジアへと生産がシフトしていく過渡期に作られたものだ。「生地の堅牢度が低いんですよね。だから色落ちが激しいんですよ。でも逆にその色落ちが今人気で、“フェードしてる生地感”がめちゃめちゃ魅力的なんです」と金子さんは語る。
この「色褪せ」が、スノーライオンの魅力のひとつだ。新品では決して出せない、時間が作り出した独特の風合い。それは単なる劣化ではなく、ヴィンテージならではの味わいとして、今の時代に新しい価値を持つ。
「スノーライオンは、僕も長年注目し続けているブランドのひとつなんです」と金子さん。「先日、お世話になっている古着屋が21年振りに3日間限定で復活させたアウトドアヴィンテージショップがあって、そこでスノーライオンが出たんですけど、オープンして最初の方に売れたと聞きました。それくらい希少で知る人ぞ知る存在。探している人はずっと探し続けている印象です」。
価格面ではまだ狙い目。「ほかのダウンに比べるとまだお手頃だと思います」。ただし、ヴィンテージ特有の注意点もある。「ナイロンはカサカサになってるものもあるので、状態をしっかり見る必要がありますね。でも隠れた名作として、ぜひ探してほしい」と熱く語った。古着屋で見かけたら、迷わず手に取りたい一着だ。
1984年生まれ。文化服装学院スタイリスト科を卒業後、2010年に「ビームス 原宿」のアルバイトを経て入社。2015年に「BEAMS PLUS」のバイヤーに就任。古着への造詣が深く、ヴィンテージアイテムを元に再構築するものづくりやバイイングを得意とする。とくに自身のアウトドアアイテムのコレクションは業界でも有名。ヴィンテージアイテムを組み合わせた独自のスタイリング力にも定評あり。
EXPEDITION CLUB OSAKAが開催!
金子さんが案内人を務めるヴィンテージダウンの世界を、実際に体験できる機会がやってくる。
2025年12月12日(金)にオープンした「ビームス プラス 大阪」では、東京、ロンドンそしてニューヨークで大好評だったイベント「EXPEDITION CLUB」の大阪版を開催。金子さんの著書『OUTDOOR EXPEDITION BOOK 99』で紹介された、超希少なクラシックアウトドアアイテムのコレクションを間近で見られるまたとないチャンスだ。
会場では、金子さんが長年かけて収集してきたヴィンテージダウンジャケットをはじめとする厳選アイテムを展示。さらに、ユタ州立大学の図書館内にある世界最高峰のアウトドア資料室「Outdoor Recreation Archive」が保有する希少なカタログも公開される。通常は大学図書館内で厳重に保管されているアウトドアブランドの貴重な資料を、実際に手に取って見られる貴重な機会となる。
古着ダウンの魅力をさらに深掘りしたい人は、見逃せないイベントだ。
Composition & Text: Ai Hogami