2019.12.14

【教えて! 東京スニーカー氏 #29】アウトドアスニーカーはブームなんですか?|2019年5月号掲載

エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第29回はナイキのACGとアウトドアスニーカーについて。

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ACGのルーツとなったナイキのアプローチ。オリジナルは1984年に登場、こちらは2008年復刻のもの。僕はあえて昨年発売されたGYAKUSOUのシューズのひもにつけ替えて、都会的な自然をアピール、できてないか。/私物



’90sブームが引き起こしたスニーカーのトレンドは、大きく3つあります。一つは’90年代初期〜中期にかけて発売されたミッドテクの復刻。ナイキのエア マックス系やリーボックのポンプフューリー、プーマのディスク ブレイズなどの名作たちですね。



もう一つはダッドスニーカー。これは’90年代中期以降のハイテクスニーカーです。フォルムがずんぐりむっくりして色も奇抜、なかなかの厚底。前者はどれも個性的で洗練されていたのに対し、後者はどれも特徴が似ていて野暮ったい。デザインに暗黙のルールがあるから、メゾンやファストブランドまでが「おじ系」というざっくり感の範疇でスニーカーを作れる。だからトレンドが思ったより長く続いています。そして最後が“アウトドア”です。



’90年代初期、世の中は空前のアウトドアブームでした。コールマンやパタゴニアなど、今じゃ当たり前のブランドが日本に上陸し、車は四駆が憧れの的に。バブルの終焉期、社会は劣悪な労働環境を改善し始め、学校も週休2日制を導入。人々は週末にキャンプを楽しむようになりました。



そして1991年にナイキのACGが本格的にスタート。茶系にグレーやグリーンやブルーといった自然を連想させる配色のスニーカーが各メーカーからこぞって発売されたのです。これ、現代と似ていませんか? ザ・ノース・フェイスは絶好調で、フランスのデカトロンが上陸。車はSUVが相変わらず売れているし、何より働き方は本格的に見直されている。歴史はやっぱり繰り返されているのです。

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2009年頃のACGのエア モック。2000年代になると、ストリートとの融合で都会的なカラーやデザインが増えました。/私物



「ACGってどういう意味」とよく聞かれますが「オール・コンディションズ・ギア」の略。ナイキは、’80年代に典型的な山登り用シューズを展開していましたが、’90年代に入り、全天候型シューズへと姿を変えました。トレッキング、トレイルラン、ロッククライミング、バイク。自然に関する一連のアクティビティを網羅するラインナップで消費者の多様化したライフスタイルをつかむ、それがACGの狙いだったのです。



実はこのACG、2010年過ぎから鳴かず飛ばずでしたが、’14年にエロルソン・ヒューという外部デザイナーを迎えて復活。都会的で機能的で、色は黒や白だらけ。そんなモード感とともに華麗に返り咲きましたが、昨年から’90年代のロゴを採用し、当時らしいカラーやデザインで復刻されるようになりました。ACGは常にガチ山系ではなく、時代に合わせて姿を変えているというわけです。



しかし今、各メーカーがあらためて、アウトドアに注目しています。今やSNSと距離を置いて生活するのはほぼ不可能ですが、スマホの画面の中で生きる現代人に警鐘を鳴らすべく、自然と僕らを結びつけてくれている気がしています。自宅で足元を撮影してSNSにアップして満足するのではなく、履いて身体を動かしてほしい。どうぞ今月号のアウトドア特集を読んでいただき、足元から気持ちをアゲていきましょう。もう春ですし。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photo:Yuichi Sugita
Text:Masayuki Ozawa
(2019年5月号掲載)

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