2018.11.25

【教えて! 東京スニーカー氏 #25】スニーカーを“履く”以外の楽しみ方はありますか?|2019年1月号掲載

エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第25回はスニーカーを題材にしたアートについて。

【教えて! 東京スニーカー氏 #25】スの画像_1
【教えて! 東京スニーカー氏 #25】スの画像_2

インドのアーティスト、ファグートさんに何を渡すか考えて、最初の出会いだからとナイキの誕生モデルのコルテッツにしました。左右別々の色のスウッシュや、「耐克」(中国語でNIKE)と刺繡されたヒールをうまく活用してもらいました。コルテッツ用の靴箱が下の写真。コミックスは一冊の厚さによりますが、大体、20冊は入ります。/私物



さまざまなスニーカーの仕事に日々携わっていますが、2018年を振り返るとスニーカーの価値観が大きく変わった気がします。僕は年をとるにつれ、所有することから履くことに楽しみが変わりました。足元を通じて自分が表現したいのがファッションだから、「持ってるね」より「おしゃれだね」と言われるほうがうれしいわけです。



そんな中、スニーカーを題材にアートを作る人が急増していて、興味をもち始めました。SNSなどオンラインの世界でバズを起こしやすいスニーカーは、今や世界共通。だからこそコレクターはInstagram内のインフルエンサーになり、ユーチューバーへと姿を変え始めました。ネットを活発にする素材を利用した表現者は本当に増えています。



例えば、今年知り合った中国人のツィジュン・ウォンは、スニーカーでマスクを作っています。伝統工芸品の製作からアートのキャリアをスタートした彼は、北京の大気汚染の悪影響や注意喚起を目的に、市場取引価格の高い、つまり注目を集めやすいモデルでマスクを作り始めました。NBAプレーヤーや村上隆さん、ヴァージル・アブローらも注目し、彼の作品をポストしています。日本はマスク文化ですが、これがスニーカーでなかったら、その影響力はありませんでした。世の中にインパクトを与える素材にスニーカーを使うことは、今では当たり前の手段なのです。



そして6月、今度はインド出身のアーティスト、ファグートとInstagramを通じて知り合い、東京で会いました。彼は、スニーカーを分解・再構築してキャップや財布、サコッシュなどを作っており、シンガポールの権威あるスニーカーショップでワークショップを開くなど、精力的に活動しています。知り合った記念に僕の私物のナイキ コルテッツを渡し、世界で唯一のキャップ(写真上)を作ってもらいました。柔和でとても親切なジェントルマンで、僕にとって初めてのインドの友人です。



ほかにもスニーカーを題材に絵を描くアメリカのイラストレーター、世界中から市場に集まる段ボールを再利用して、スニーカーのオブジェを製作する沖縄のアーティストなどたくさんの出会いが。それぞれのスニーカー愛のかたちがありました。



スニーカーがコミュニケーションツールになり、新しい利用価値が生まれていく。無芸で不器用な僕がアートを生み出すことはできません。しかしこの時代感をヒントに、無造作に積み上がる家の靴箱をどうにかできないか考えました。すると、この箱が漫画の単行本の収納にぴったりなことを発見!(ネットでもわりと有名)。本も同じく自宅に積み上がっていて、ともに雪崩を起こしそうな状態だったので一石二鳥。ほかにも息子のこまごまとした遊び道具の収納箱に使ったりして楽しんでいます。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photo:Yuichi Sugita
Text:Masayuki Ozawa
(2019年1月号掲載)

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