2017.11.25

【教えて! 東京スニーカー氏 #13】流行りのドラマ「陸王」みたいな、心を動かすシューズの開発秘話を聞かせて

エディター・小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月いち連載【教えて! 東京スニーカー氏】。第13回はマーガレット・ハウエルとミズノ「Mライン」とのコラボシューズについて。

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1 シューズ¥19,000/マーガレット・ハウエル×ミズノ(アングローバル)。 2 工場の入り口にドラマ「陸王」のポスターが! 3 工場内で生産されるハイエンドなランニングシューズ。ヒールに「japan」!



上のマーガレット・ハウエルとミズノの「Mライン」とのコラボシューズを展示会で見たときは、ずいぶんとレトロ感を狙ったなと思ったものです。Mラインとは簡単に言えば「ランバード」の前身。1970〜’80年代はアスリートから学生までが「M」の入ったシューズを履いていました。しかし’83年に宇宙の惑星軌道をモチーフにした「ランバード」マークを発表。互いのブランドが共存し合う中でランバード製品が社内シェアを高め、’90年代初期になるとMラインは姿を消していきました。



その関係性はカセットテープとCDのようだと思っていたのですが、復活したMラインはレトロなカセットテープじゃなかった。アーカイブを復刻し、そこにマーガレット・ハウエルが乗っかる。ものづくりに特化した両者ならもう一声!と思っていた僕は浅はかでした。シューズは常に進化しているから「レトロランニング系」って見た目重視で履き心地はイマイチ。この靴もその類いと思っていたら、不思議なことに試着したときよりも数日後の足入れ感のほうがいい! その秘密を生産工場に行って解明してきました。



Mラインのシューズは兵庫県宍粟(しそう)市の山崎ランバード工場で生産されています。ここは通常、箱根駅伝や実業団選手向けのランナーやプロ野球選手に向けた特別なシューズやスパイクを製造するところ。アジア生産が主流な中、日本製なだけでも価値があるのに、その中のトップモデルと同じ生産ラインで、このレトロなシューズが作られているんです。

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4 Mマークの金型は復刻の際にちょっと形を変更している。 5 開発チームはMラインの復刻に約2年の歳月を注ぎ込んだとか。写真はパタンナーの中村さん。 6・7 このモデルはランバードの最高級モデル「エンペラー」と同じラスト。最初は細く感じるけど、こだわりのパターン設計のおかげですぐフィットする。



お話を聞いたのは、パタンナーとしてこの道約15年のマイスター、中村勉さん。「やるべきことは今のランニングシューズと変わりません。ミズノで作るからには、無駄なシワや接着剤のはみ出しなどは許されませんよ」というだけあって、ナイロンツイルがピンと伸びたトウの作りはさすが。レトロ靴ってある種の「雑味」や「手作り感」が評価されるのに、さすが一流選手をサポートするだけあって自分たちに厳しい!



「Mラインは自分でもやりがいのあるシューズ。似たような靴はあっても、ノウハウと技術を注入したものはここでしか作れません。今回は、既存のレーシング用シューズのラストを使うことがコンセプトでした。スリムで安定感がある履き心地はそのため。ただしスポーツシューズよりも着用時間の長さを考慮して、少しゆとりをもたせています」とのこと。



その微妙なさじ加減を調節するのが中村さんのお仕事。同じラストでも、優秀なパタンナーでないと不格好になることも。ランニングシューズである以上、軽さやスピード感を可視化するために、スリムなフォルムは不可欠なのです。



日々アスリートに最適なフィットを提供するランバード工場の技術者が作るから、ただのレトロランシューズとは一線を画す美しさと履き心地が、このモデルにはありました。そのこだわりに、マーガレット・ハウエル氏も惚れ込んでいるみたいですよ。次回は、もう一つの開発秘話について書きたいと思います。乞うご期待!

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

アングローバル TEL: 03-5467-7864

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos&Text:Masayuki Ozawa
(2018年1月号掲載)

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