2022.09.14

革靴とスニーカーのハーフ&ハーフが、今また「アリ」な理由【教えて! 東京スニーカー氏】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回は、革靴とスニーカーの要素を併せ持つ「革靴スニーカー」について。

革靴とスニーカーのハーフ&ハーフが、今まの画像_1
サボール_ジョグ_革靴スニーカー

’70年代と’80年代のランニングシューズをミックスしたようなデザイン。シューレースがないので、アスレチック感が払拭されてまさに革靴ライク。アッパーは柔らかく、薄手で、ライニングも革なのでスニーカーとは別次元のフィット感が新鮮です。ちなみにジップは高級なYKKエクセラファスナーを使っています。¥33,000/サボール(GMT)



 Y2Kで盛り上がる2000年前後の僕のファッションは、比較的ゴリゴリのアウトドアとヒップホップのミックスでした。しかし留学先から東京へ戻ってすぐにこの仕事を始めると、裏原宿の大御所たちやライターの先輩たちがエルメスのターボやvisvimのトゥンブリー、そしてシルヴァノ・マッツァといった、革靴とスニーカーの要素がハーフ&ハーフという、見たことのない靴(以下:革靴スニーカー)を履いているではありませんか。それがすごく大人に見えたんです。その後ヤフオク!を賢く利用して憧れへの距離を埋めていたのは、ライター見習い時代のよい思い出です。



 革靴スニーカーが気になるのは、ファッションが変わる前兆です。ワイドパンツ一辺倒だったのに細身が気になりだしたり、Tシャツよりシャツが気分になったり、好きな黒やネイビーをベースにポイントで茶を取り入れたくなったり…高級感が欲しくなってるんですよね。4月にデビューしたばかりのSABOR.を初めて見て、そんなことを考えました。僕が履いている写真の「ジョグ」は、見た目はランニングシューズ、でも感覚は革靴です。スニーカーって、履き口のパッドなどのクッションの厚みでフィットさせるから、ハーフサイズアップくらいが心地よかったりする。一方で革靴は、いい革を使っていると足の形に沿って伸びていくから、最初はちょっとキツいくらいがいい。SABOR.のアッパーの作りは後者で全体的に薄いんです。しかも靴ひもの代わりにファスナーでカバーする作りで、革質のよさが問われる。カップインソールを自社で作ったり、ビブラム社のソールを使ったりとスニーカーとしての身なりを整えつつ、最終的に革でラッピングしたソールは、やはり見た目の印象がだいぶリッチです。



 莫大な開発費は別にして、スニーカーってピザみたいなもので、生地にふりかける色、柄、素材、カルチャーといったトッピングのバランスがセンス。モリモリの全部盛りの一足にどうしてもバリューがつきやすいのが現状だと思いますが、革靴スニーカーは、言うなれば寿司みたいなもの。純粋にクオリティがバリューに直結するから、リセールの市場とは無縁ですよね。SABOR.の人にもいろいろとお話を聞きましたが、やはり靴としての評価を高めようと思ったら量産は困難なんです。当然、素材にも、ファクトリーにもこだわらないといけない。だから同じスニーカーのジャンルでも、両者を同列で比べるのはナンセンスだし、どっちも違った意味で「おいしい」んです。足元だけ見ていても革靴スニーカーの魅力には気づきません。目線を上げておしゃれを楽しみましょう。20年前のように、背伸びして大人を装うほど若くはない。今なら高級感を狙いましょう。ちょっといい素材の服を取り入れたり、小物に気を遣ったり。それこそいいお寿司屋さんにふさわしいファッションをSABOR.を軸に考えてみようと思います。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。

Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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