2021.09.26

最近、ヴィンテージスニーカーって流行ってます?【教えて! 東京スニーカー氏 #52】

“東京スニーカー氏”ことエディターの小澤匡行がスニーカーにまつわるギモンに答える月イチ連載。今回はヴィンテージ人気について。

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2012年に発売された「エリート」のオリジナルは1977年のランニングシューズ。ソールの日焼け具合とか、シュータンの筆記体のロゴとか、再現のクオリティが本当に高い。40年以上も前のリアルヴィンテージは骨董品なだけに履くのは躊躇してしまうけど、この年代ならファッションとして使える。最近、メルカリで買ったお気に入り。



ハイテクブームってのはわりとよく聞く言葉ですが、その対極にあるヴィンテージブームは、’90年代以降、UOMO世代にはあまり馴染みのないワードではないでしょうか。ライター業を始めた頃の20代の自分は、休日になるとよく友人と一緒に古着店を行脚して現在進行形のファッションとして楽しんだものですが、年をとると履いて着て楽しむ消耗品より、大事にメンテナンスしながら使ったりする「生き長らえるもの」としての魅力を感じるようになりました。つまりヴィンテージの対象がスニーカーや服から、家具や器、時計などへと変わっていったのです。

しかし投資価値が付加された最近のスニーカーブームは、前述したジャンルとは異なれどハイプな新品の限定モデルだけでなく、古いモデルまで視点を広げました。本当に価値があるのはネットで運よく購入できる限定モデルよりも、知識と経験なしではたどり着かない一点もののヴィンテージであるという風潮です。特にナイキのDUNKやAIR JORDAN1といった、ソールの加水分解が目に見えて起こりにくいモデルがその対象。ともに1985年製のオリジナルはあまりに高額なので、僕はあえて’90年代後半の復刻を履いています。家具などと違ってあくまでファッションなので、現行にはない細身のシルエットやスウッシュの躍動感、そして黄ばみや劣化の雰囲気がスタイリング偏差値を上げてくれるんです。ソールの硬化などの履きづらさはありますが、久々に「ファッションは我慢」なんて名言を思い出しました。さらにソールに専用のペンで塗って黄ばみをつけたり、色褪せたシューレースに取り替える「セルフヴィンテージ」がちょっとしたブームになっています。シンガポールのスニーカーマニアがプロデュースするFoxtrot UNIFORMのグッズがその人気を牽引しています。これはヴィンテージ風家具が人気になるのと同じ流れ。裾野の広がりを感じています。

10年くらい前にも、各メーカーからヴィンテージ加工を施したスニーカーがたくさん発売されていました。オールデンなどの革靴人気に完全に飲み込まれていた頃だったので、さして注目されませんでしたが、この頃に買い込んでいたランニングシューズが気分で、秋冬にどうやって履きこなそうか考えるのが楽しみの一つ。40代になって見た目も枯れ始め、新しいファッションに無理が生じてくると、自分が通ってきた服とスニーカーのサイクルを切り分けて、組み合わせるのがおしゃれだと僕は思います。いま旬なジャンヌレや普遍的なウェグナーの椅子に新しいテーブルを合わせた空間を、イサムノグチで照らすように、自分の通ってきた時代感を編集すると、ファッションも無理なく“新しい”にチャレンジできそう。まずは写真のナイキの「エリート」に週5でヘビロテしている3色のステューシーのビーチパンツを合わせて新しい足元を楽しみたいと思います。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。スニーカー好きが高じて『東京スニーカー史』(立東舎)を上梓。靴のサイズは28.5㎝。


Illustration:Yoshifumi Takeda
Photos,Composition&Text:Masayuki Ozawa

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