「VAPORFLY NEXT% 4」に転写プリントされた「PRE MONTREAL」はプリがNIKEにリクエストした、爪先に縫い目をなくしたトウの構造が特徴。赤と青のコントラストを効かせたレトロなアッパーに合わせるように施されたミッドソールのエイジング加工がヴィンテージのムードを表現。
最近気になるランニングシューズは?
1991年の夏、東京で初めての世界陸上が開催されました。この大会の主役はカール・ルイスでしたが、日本人が男子マラソンで金メダル、女子マラソンで銀メダルを取ったことも歴史的な快挙。陸上をはじめてまだ1カ月足らずだった13歳の僕にとってそのレースはとても刺激的で、テレビに食いついて観ていました。間違いなく陸上を好きになるきっかけになったし、今こうして原稿を書いていることにもきっと関係しています。ちなみに先日、そのレースを制した金メダリストの谷口浩美さんにインタビューをすることができました。34年がたって、あのレースを振り返ってもらえるとは。何か込み上げるものがありました。今年はあのとき以来の東京大会。このUOMOの発売日にはもう閉幕していますが、どうでしたでしょうか?
NIKEのN.I.R.T.コレクションは、過去と現在の融合がコンセプト。それは’90年代の体験がつながって、今も走り続けている僕のランニング履歴を表現したかのようです。’90年代の僕は「走ること」に興味をもったおかげでヴィンテージの世界に辿り着きました。彩り豊かな’70年代のNIKEのランニングシューズを、ジーンズやチノに合わせる、あの頃の古着スタイル。シューズは派手なほどかっこいいと思っていました。写真は、1974年に作られた陸上スパイク「PRE MONTREAL」を最新の「VAPORFLY 4」に転写プリントしたもの。新旧の2足を重ねたようなデザインです。
1970年頃、アメリカにスティーブ・プリフォンテーンという若いトラックランナーがいました。高校生にして全米記録を更新するなど、将来を嘱望されていた彼は、卒業後の進路にNIKEの共同設立者、ビル・バウワーマンが指導していたオレゴン大学を選び、世界の頂点を目指しました。口髭をたっぷりとたくわえたプリは、レースに戦略をもたず、最初から先頭を突っ走る野性的なスタイル。見るものを惹きつけました。彼のアグレッシブな走りでアメリカの陸上に対するイメージをクールなスポーツに変えたんです。そんなプリのモントリオール五輪での活躍を期待して作られたのが、スピードを追求した「PRE MONTREAL」。これを日本のトップランナーの中で最も着用率の高い「VAPORFLY 4」とマッチングさせたのは、シューズのコンセプトまで考えているから。そのほかにある3モデルも組み合わせるオールド&ニューの靴のチョイスがいい。アーカイブと最新の立ち位置をブランド側も理解しているのが、同コレクションが信頼できるところです。
僕が本気で走っていた’90年代の日本も、陸上はけっしておしゃれなスポーツではありませんでした。真面目な丸刈り頭が鉢巻きして、朝から黙々と走る、そんなイメージ。でもNIKEのランニングシューズがファッションになったから誇りをもてたし、AIR MAX 95もストリートの頂点になった。やはり過去と現在を紡ぐストーリーって大事だと思います。
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。