「CLASSIC 66」は1970〜’80年代当時のデッドストックを優れた技術で再現した日本限定モデル。土踏まず部分がくびれた細い木型は、まるで革靴のような雰囲気。ソールもアッパーも真っ白ではなくヴィンテージ感のある風合いが魅力。トウの革を重ねた仕様は、登山靴のデザインを参考にしたもの。
注目のローカルなトレンドは?
NIKEやadidas、New Balanceといった大手メーカーが、アーカイブを復刻し、コラボレーションで話題をつくる。そんな巨大な文脈の中でスニーカーのトレンドは育まれています。SNSなどでの拡散力がマジョリティをつくり出す世界で、ローカルなブランドが抜け道を探して日の目を見るのは難しい時代。ただ、小さな仲間内のコミュニティでとあるスニーカーが局地的に盛り上がり、ジワジワと広がっていく。みたいな’90年代的な情報伝達のスピード感に、心地よさを覚える年代にもなってきました。そのスニーカーの魅力を嚙み砕ける時間的な余裕をもてると、愛着が深まるし、一足の寿命も長くなる。何よりも「お気に入りがお気に入りである理由」をもてることは自分たちにとって、カルチャーにとって健康的だと思います。
先日、仙台のアントレーという古着店に遊びに行きました。同年代の店主、大貫さんのセンスが好きな業界人は多いです。時代に沿ったヴィンテージへの理解と、新品はCOMOLIだけを取り扱っているこだわりが、店の雰囲気に表れていました。色味の濃淡や素材の重さや軽さ、そして何より僕にとってはサイズ感がいい。古着というか、服を文化とファッションの両軸で長いこと見ているセレクト眼には、共感と発見が多かった。そんな中、お店が注力して集めていたスニーカーがK・SWISSの「CLASSIC」でした。理由を言葉にするのは難しそうで、感覚的な選択みたいでしたが、逆に自分の温度感を頼りにしているのが伝わりました。足元だけを見ていたらこのバイイングにはならないと思います。
K・SWISSの「CLASSIC 66」は世界で初めてのレザー製テニスシューズ(諸説アリ)。スキー用ブーツを参考に、激しいテニスの動きを支える構造に辿り着きました。メタルのシューレース留めや象徴的な5本のサイドラインは、足のねじれや安定性など、堅牢な作りに貢献しています。日本でも’80年代のプレッピーブームで、TRETORNやadidasのテニスシューズと一緒に人気になった。僕には白限定だった学校指定靴の上位互換として、中学校のおしゃれな先輩たちが学ランに合わせていた懐かしい思い出が甦ります。あらためて見ると、上質な白レザーとシューレースを留める金属パーツの工業的な雰囲気が大人っぽく見えてきます。「CLASSIC」にもいくつか種類があるのですが、この1970〜’80年代のチェコスロバキア製を忠実に再現したモデルがいい具合のスクエアトウで今のムードに合っています。
K・SWISSは、スニーカーの大きな流れには正直いないかもしれません。だからこそ大貫さんみたいな古着の目利きが渦の外側から拾い上げてくることが面白い。ここ数年のハイプカルチャーが落ち着いている今、こういったSNSの世界とは違ったローカルな動きが小さなムーブメントになるといい。トレンドから少し離れた距離で見えるフィジカルなものは、年齢的にも心地よく感じます。
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。