
「Reverse Shadow」は、1985年製のオリジナルに最も忠実といわれる「エア ジョーダン 1 ハイ 85」と呼ばれるモデルがベース。レザーは分厚めで、爪先に向かって細くとがっていくようなシャープなフォルムが特徴。ステッチも当時の仕様に合わせている。まっすぐ上に向かっている直線的なヒールデザインが気に入っています。/私物
エア ジョーダン 1の好きなカラーは?
同じモデルを何度も連載のネタにすることはない、というかなるべくないようにしているのですが、エア ジョーダン1に限ってはこれが3〜4回目になるかも。それだけこの靴にはカラーによってストーリーがあり、帰属するカルチャーが異なる。だから自分の思い出やファッション観などを重ねられる名作だなとあらためて思います。1足あれば満足というよりも何色持っていてもカラバリで揃えている感覚がないんですよね。
1985年に登場したエア ジョーダン1は今年で40周年。ということで例年以上ににぎわいを見せています。7月末には、僕の好きな「Shadow」という黒グレーの配色に似たことから「Reverse Shadow」と名づけられたシューズがリリースされました。これは当時発売されなかった「幻のサンプル」を発見した日本のあるストリートファッション雑誌がNIKEの許可なしで紹介したカラーで、周年を機にNIKEの公式で復刻されました。
日本では4色くらいしか発売されなかったエア ジョーダン1ですが、アメリカでは何色存在したのか。コレクターたちの間でもいまだに説が多く謎めいています。でも、そのくらいがストーリーに余白があっていい。今になって過去を無理くり掘り返そうとするより、ネットもなく資料も紙で、保管も(きっと)いいかげんな時代に思いを馳せながら、幻を愛でるほうが楽しい。少なくとも’90年代の雑誌は、編集者たちの豊かな知的好奇心が取材力を高め、事実を解明しようとしていました。噓ではないけど真実とも言い切れない、でも人に迷惑はかけないくらいの記事をよしとしていた寛容な時代だから、カルチャーが育まれたのでしょう。人の心を動かすのは、正論だけじゃないですしね。
ところでなぜエア ジョーダン1に限って不思議が多いのか。まだNBAのコートを踏んでいないルーキーを契約アスリートとして迎え入れたかったNIKEにとって、ジョーダン1という靴はマイケル・ジョーダン本人の希望ではなく、撒き餌の一つとして用意したもの。だから広くプロモーションするために多くのカラーが必要だった。NIKEがしたかったのは、エア ジョーダンという存在の普及であり、だから多くのカラーが存在した、と僕は想像しています。結果、自身がプレイで着用した「Chicago」やNBAに禁じられた「Bred」はジョーダンとイコールな存在になったけど、ジョーダンがバスケで履いていなかった黒青の「Royal」は藤原ヒロシさんの影響力で人気になった。つまり人によって選ぶカラーが異なり、継承されるストーリーがそれぞれ存在する。それを受容する器の大きさがこのシューズにはあるんです。だから数ある中から好きなカラーを選び、カッコよく履きこなしたい。「1」は最も自分らしさを表現できるエア ジョーダン。初めて見た「Reverse Shadow」で自分らしく履きこなして、僕なりのストーリーをつくってみたいです。

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。