
トウのシェイプやソールのカーブなど、眺めているだけで革靴のような美しさ。アーチをサポートするファイバーシャンクなど見えない部分にも革靴のノウハウが詰まっている。カラーはブラックとブラウンの2色で、素材も革靴のような質感のスエードを選んでいる。
ニューレトロってどんな靴?
レトロなスニーカーは相変わらずマーケットの中心で、それらはコラボレーションをきっかけに大きな熱を帯びていく。けれど、最近は共通のフォーミュラの元にデザインが成り立っていて、その多くは色や素材を替えるとか、ロゴを追加するようなものばかり。インラインとの差別化が難しい時代に、ひと目惚れするようなスニーカーを探すのは難しくなってきた。ノスタルジーを誘う復刻やカラーリングは、コレクション、ファッションどちらの側面でも欲しくなるものが多いけど、純粋にスニーカーの未来を憂慮すると、新しいアイデアやシルエットが必要だし、それを求める人が増えているように感じます。
クラシックの範疇を超えず、新しいと思える「ニューレトロ」が気になっています。その一つがグラフペーパーによるジャックパーセルでした。いわゆる「革靴風スニーカー」って、いいとこ取りしようと力むあまり、デザインが表面的になって残念、みたいなケースが多い。でもCONVERSEのローファーにはスニーカーカルチャーの歴史があって、視点が軽くない。1996年に甲のストラップ部分に星がついたワンスター ローファーは、僕にとってファッション業界のアイコンでした。「Boon」のライターの先輩たちが古着に合わせていた姿に憧れて、古着屋やデッドで残っている靴屋を探して買ったものです。まさにスニーカーにおけるローファー文化の先駆けでした。2018年にCONVERSE ADDICTでアレンジモデルが発売されたときは驚いたし、思い出バイアスが刷り込まれているからか、CONVERSEのローファーには意味を感じるんです。
グラフペーパーのジャックパーセルは、アッパーだけデザインしているのではありません。新しいアナトミカルラストを採用していて、インソールのウェッジも13㎜と分厚い。履いたときにずっしりと足がクッションされている感覚があります。しかもスニーカーにしてファイバーシャンク(ふまず芯)を使っていて、足にかかる荷重を支えてくれる。革靴としてのクオリティを上げる考え方で作っているのがよくわかります。
僕が気に入っているのは、ヴァンプの太いモカシン。15年以上前にアメリカのメイン州にある老舗の靴工場を取材して、モカシン縫いについて学びました。ストラップの脇を肉巻きのように仕上げる“ビーフロール”がトラッドの証拠で、それをどれだけ太糸で美しくハンドソーンできるかが腕の見せどころだと職人たちは語ってました。このローファーを見ると、そんな思い出が甦ってくる。シンプルに見えて、細部がとても重厚です。
原稿を書いているのは、ちょうど本作の発売日。この手の靴って、よさが伝わりにくいぶん、後でジワジワくるんだよな、と思ってたら、即日でかなりサイズが欠けてました。この靴の新しさと懐かしさのグッドバランスをファッション好きの人たちが感覚的に理解しているんだなあと思います。

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。