2024.04.01

【プーマ】PUMAに見る2000年デザイン|教えて! 東京スニーカー氏

モストロ

オリジナルの誕生から約25年もの時を経て復刻したモストロは、イタリア語でモンスターを意味する言葉が由来。1960年代の陸上スパイクから着想を得たデザインで、足型に沿った薄いシルエットや左右非対称のアッパーデザインが当時のモード感。ちなみにスポーツシューズに初めてゴム製のストラップを採用したのはPUMAだそう。/私物

PUMAに見る2000年デザイン

 “2000年代”がファッションもスニーカーも重要なキーワードになっています。リアルにその時代を経験していた自分の身からすると、くみ取るムードやその頃のアイコンの解釈は、年代や性別によってだいぶ異なるな、と感じます。今、世の中が注目しているY2Kや2000年代はお隣の韓国を経由してきたファッションで、東京でリアルに経験してきたカルチャーとはちょっと違う。しかもそこに多様性といったZ世代らしい視点が加わるなど、複雑に絡み合った因果関係によって、思わぬスニーカーが注目されたりして驚かされることが増えました。

 今考えるとこの頃に活発な動きを見せていたのは、ヨーロッパファッションとの親和性が高まっていたPUMAで、スポーツブランドではひと足早くモードやラグジュアリーにイメージを寄せていました。その頃の僕は古着やストリートが好きだったので「スウェード」や「クライド」「ビースト」などのヴィンテージが憧れ。そうやって過去を向いている間に、’98年にはジルサンダー、2000年にはミハラヤスヒロとのコレクションを発表するなど、僕と縁の薄かった「あっち側」を進んでいたように思います。そして1999年に発売されて、世界的にヒットしたのが「モストロ」でした。

 まるでドライビングシューズのように巻き上がったソールが特徴で、ミッドソールがない低重心のスタイル。当時の僕の感想は、そのほかのPUMAをひっくるめて「モードっぽい」という曖昧なものでした。でも、これをデザインしたピーター・シュミットという人は、DKNYのシューズデザイナーからPUMAからの求愛により移籍した敏腕。よくよく考えると数年前に若者世代の間でDKNYなどの’90sデザイナー古着が流行っていました。その人気はロゴのパワーだったと思いますが、とにかく「モストロ」にはその頃のファッションの熱気が詰まっていたんだと思います。

 その熱の正体がこのユニークなフォルムです。1960年代の陸上スパイクがインスピレーション源らしいのですが、改変しすぎて原型をとどめていません。ただ、今の時代に「ユニーク」と言わせるデザインがどれだけあるか。’90年代前半のスポーツメーカーは、アスリートが抱える課題を解決するテクノロジーを靴に落とし込んだ形状をデザインと言い換えてきました。つまり機能を視覚化するデザインが活発でした。しかし2000年代は、PUMAやプラダスポーツのようにラグジュアリーファッションの目線で足元をとらえた、自由なデザインが増えました。その流れが、方程式のないY2Kのコーディネート感覚に合致し、懐かしくも新鮮に映るようです。

 では、大人ならどう履くか。僕なら黒やグレーの無地のニット、同色のミニマルなスラックスに合わせたい。スタイルに溶け込みながら、しっかり主張してくれるバランスが、僕の理想を突いています。

小澤匡行プロフィール画像
小澤匡行
「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。

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