
オーストラリアの海岸やビーチで過ごす週末を連想するようなアイコニックなデザイン。Y2Kを連想させるベースモデルだからこそ、こういった自然のインスピレーションがうまく融合すると落ち着いて見えます。メッシュやサイドのストライプが浮いて見えない、アシックスの新しい魅力を感じました。秋冬に履くのが楽しみです。/私物
コペンハーゲンのスニーカー事情は?
5月、本誌40ページからの特集のためにコペンハーゲンに行ってきました。自然に恵まれた北欧の豊かなスタイルや精神性はファッションにも影響を与えていて、足元事情も日本と似ている部分もあれば、違うところも多かったです。グローバル化が急進して、スニーカーはその国限定のモデルとかが少なくなりました。それでも、何を選ぶか、どう履きこなすかでお国柄が出るのは、楽しいところ。生産数だけが価値に直結するカルチャーは、面白くないですからね。
コペンハーゲンで驚いたのは、アシックス人気の高さです。初日の取材先の近所で目に入った「asics」の巨大グラフィティに驚いたし、こと女性の着用率の高さにも驚いた。遠目で見ることがほとんどだし、自転車に乗っている人も多くてモデルが判別しにくかったけど「GEL-DS TRAINER 14」は人気だったと思います。アシックスはここ数年で中核品番が増えてきましたが、このモデルの好きなところはソール。「GEL-NIMBUS」とか「GEL-KAYANO」とか、キコ・コスタディノフが監修するデザインはまあ主張が強いので、服が地味だと足元が浮いて見えやすいのですが「DS-TRAINER」はGELの面積が少なくて合わせやすい。あとはサイドからヒールにかけて巻き込むようなスペーサーメッシュのレイアウトが、独特で気に入っています。
日本からは遠いデンマークですが、一昨年はセシリー・バンセン、昨年はHAYとコラボレーションするなど、実はウィメンズやライフスタイルで深い接点がありました。そうした話題もアシックスが浸透している理由でしょう。取り扱い店舗のバイヤーに「アシックスはどう?」と聞いたら「Not Commercialがいいね」と答えていました。この言葉には、直訳以上に深いニュアンスがあると思います。本質的なクオリティをちゃんと追求していて、ブランドが自分たち主導で騒いでいない感じに好感を覚えているようでした。スニーカーの、特に機能を主張する広告は、総じて刺激的なものになりがちですが、アシックスには文化的な深みを感じているみたい。街がコンパクトで、ストリートカルチャーが浸透していない都市でのリアルな褒め言葉は、とても真実味がありました。ミニマルであることと、機能的であることを、どう表現するかのヒントをなにか得た気がします。
そう思っていた矢先に、テンプテーション バケーションというゴールドコースト発のブランドとのコラボレーションが発売されました。リリース情報を知るまで、このブランドを知らなかった僕ですが、オーストラリアの海岸や自然に着想を得たカラーリングが、落ち着いていてよかった。Y2K時代の機能派アスレチックシューズがベースモデルだと、20〜30代向けのイメージが強いですが、これなら僕のような40代でも履きやすい、と思って手に入れました。その後、即完してしまったようです。アシックス人気、すごいですね。

「足元ばかり見ていては欲しい靴は見えてこない」が信条。近著に『1995年のエア マックス』(中央公論新書)。スニーカーサイズは28.5㎝。