岸 政彦さん/社会学者

 京都大学の教授を務める岸さんは、戦後の沖縄社会をテーマに生活史の聞き取り調査をしている研究者。そうした社会学者としての一面だけでなく、小説やエッセイなどの多彩な文筆活動でも注目されることが多い。そんな岸さんが2017年4月から2023年4月までの日々の生活を綴った『にがにが日記』を上梓した。


「38歳で大学の教員になって45歳で初めて本を出したので長いこと無名やったんですけど、 ’90年代後半から自分でホームページをつくってエッセイとか雑文みたいなものをずっと書き続けていて。そのときに辿り着いたのが日記の形式でした。日記にはわりとネタっぽいこととかストレートな愚痴、自分の弱さを書いたりしてるかな。あとは一緒に暮らしてた猫の介護の記録とか、飯のこととか、連れ合いがぼそっと発した面白い言葉とか。もともと日記もそうやし、誰も見てないようなYouTubeの動画なんかをよくあさってて。ささやかな日常みたいなものに触れたり書いたりするのが好き」


 岸さんが市井の人々の生活史をインタビューする理由もそこにある。


「ただ単にミクロなものを見てる心優しい人ではないんです。現代社会をマクロな視点で観察しながら、その中で小さなものを見てる感覚。僕がやってることをサッカーにたとえてくれた学生がいましたけど、味方や敵の位置、コート全体を見渡しながら、目の前のボールにものすごく集中してるような感じ。例えばジャズを聴いていて“この曲のギターソロがいい”と思うのも、ジャズ全体の中での位置づけを知らないと意味をもたない。同じように、一日だけ取り出して読んでもよくわからない日記が集まって、人生のありようが見えてくるんだと思います」


岸 政彦さん
1967年生まれ。京都大学教授。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版)、『街の人生』(勁草書房)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社)、『ビニール傘』(新潮社)、編著に『東京の生活史』(筑摩書房)、『生活史論集』(ナカニシヤ出版)など。7年間の人生の記録を綴った『にがにが日記』(新潮社)が発売中。



Photo:Shinsaku Yasujima
Text:Kohei Hara