サウナブームの火付け役となった『サ道』シリーズを手がけ、大人気のカプセルトイ「コップのフチ子」を生み出し、水草レイアウトの世界ランカーでもあるマンガ家・タナカカツキさんが、UOMOでのマンガ連載をまとめた新刊を発表。その名も『今日もまたそんな日 超朝型ルーティン生活の愉しみ』。朝4時に起床し20分ごとにタスクを切り替えて黙々とこなす、驚きの“超朝型時間管理生活”の実態を知るべく、超夜型のライターがインタビュー。夜に生きる人間が、ぐうの音も出なくなってしまったその内容とは…。
「無理してがんばらない」を追求したら朝4時起きに辿り着いた
──新刊『今日もまたそんな日 超朝型ルーティン生活の愉しみ』では、日頃タナカカツキさんが実践されている“早起き時間管理生活”の様子と、その魅力を描いています。この生活スタイルを始めたきっかけを教えてください。
私は長い間、がっつり夜型だったんです。夜中に寝てお昼に起きる感じ。早起きの生活になったきっかけは二段階あって、一つは子供が産まれて育児が始まったとき。ここで朝7時起きになったんです。これは大改革。
私が起きると、もう妻と子供は起きています。それ以上に、妻は数時間おきに起きる赤ん坊にずっと寄り添いながら、ごはんを作ったり家事をしたりしてくれています。そんな中、ずっとダラダラ寝ているわけにはいかない。徐々に朝型に変えていくと、朝の空気が清々しかったり、淹れたコーヒーがおいしかったり、ちょっとしたことを無自覚に「気持ちいいな」と感じ始めたんです。で、起きたついでに仕事をしたら、「あれ、午前中に終わっちゃったよ」と(笑)。そんなところから次第に“自分にとっての心地良さ”を求めていくようになってきました。
もう一つは、そんな生活が始まって、並行してサウナへ通うようになった頃のことです。サウナに入るとすごく気持ちよくて、「今これって、どういう状態なんだ?」と心地良さの正体を追究しはじめました。この経験がきっかけで「サ道」の構想が生まれました。この“ととのった状態”を、サウナ後だけでなく、家でもそのまま再現したいなと思ったんです。そして朝型の生活へと変化しながら、快適さを持続させるための方法を模索しはじめたんです。
私が「無理してがんばらない」「ええ感じにやっていく」というミッションを掲げて活動する中で、「健康的な眠りを維持しながら、仕事量を増やせる方法はないものか」と考えるようになりました。そこで生理学や脳科学などの知識を漁り、その結果、4時に起床して20分ごとに分けた小さなタスクを淡々とこなしていく方法に辿り着いたんです。
──最初から4時起きルールはあったんですか?
4時になっていったのは、日の出を追いかけていたからだったと思います。7時に起きると、窓から漏れくる日の出の光を感じるんです。特に冬は、7時なんてまだ暗くて、窓を開けるとスーッと冷たい風が吹き込んで、季節の香りを運んでくる。それから徐々に入ってくる陽を体で感じながら一日をスタートしたら、「なんか気持ちいいぞ」ってなってね。当初は起きる時間をきっちり決めてなかったから、たまに7時過ぎに起きると、「もう明るくなっちゃってる…」と、もったいないと思うようになってきたんですよ。そこでちょっと余裕を持って起きようと考えて、冬至から夏至にかけてどんどん早くなる日の出を追いかけていたら、4時起きになっていきましたね。
──プリミティブな感覚を頼りにしていたんですね。
たぶん人類の体は電気が発明されるまでは、日が昇り明るくなったら目覚めて、日が落ちて暗くなったら寝るようになっていたんだ、と思ったんです。そういう生理現象がもともとあって、我々人間の体にはコレが合っているんだろうなと思い、いろいろ文献や資料も読んでみました。
やっぱり朝起きたときって脳疲労が取れているし、昨日の嫌なことも忘れているし、いちばん元気な状態なんですよね。私の場合、マンガを描くうえで何かを発想できる精神状態が必要なので、いちばん元気な時に創作の時間を設けるほうがいいとわかったんです。
義務で人は動かない。脳は気持ちいいことしか興味ないから!
──お昼起床から4時起きにすると、自分の生活を8〜9時間ぐぐっと前倒しすることになりますが、それによって歪みは生まれないのでしょうか?
歪みではないけど、失ったものはありますね。完全に失ったのは“夜”。
──確かに(笑)。
もう21時には寝ますから。今は4時に作業を始めるので、朝3時半に起床して、アトリエに行っています。3時半なんかに起きている人間にもちろん夜は存在しません。
──それまでのカツキさんにとって“夜”はどういうものだったんでしょうか?
仲間と会って語らう時間ですよね。あと、女性と潤う時間ですよね。オキシトシンやドーパミンやアドレナリンを出し合う、麗しき魅惑的な時間ね。完全に失いましたね。朝にそんな時間はないです。まあ、世界のどこかには、朝にその時間がある方もいるかもしれませんが…。
そして、むざむざと時間を使う時間はないですね。「あとは寝るだけだから、ゾンビ映画でも観るか」みたいなダラダラした時間ね。すべての思考を手放す、ある意味いい時間だとは思うけど。
──ダラダラした自分だけの時間、好きです。そういう無駄と思われる時間の余白にこそ、ひらめきや創造欲が出てくると思っています。
確かに、そういうことありますよね。でも、例えばひらめきについて言うと「こういう話を描くと面白いんじゃないか」というアイデアって、やっぱりリラックスしているときに出てくるんですよね。寝る前とかトイレとか電車の移動中とかに、いろいろなことが思い浮かぶし、問題の改善策も思いつく。忙しいときや気が立っているときは、良いアイデアはほぼ出てこないと言っていい。朝型にすると、ひらめきが必ず1日に2回きます。リラックスしている朝と、すべての作業が終わった午後。
──必ず2回!?
気持ちいい朝、部屋を掃除したり庭で植物をいじったり、頭を使わずに手を動かすルーティン作業をしているときにアイデアが出やすい。他に、午後散歩をしていたり、サウナに入っていたり、サウナから出たりした時も。今となっては、夜は19時くらいから眠気でぼーっとしているし、アイディアが降ってきてもメモを取らないといけないし、アドレナリンが出ちゃうと面倒くさいんで、アイデアは出ないようになってますね(笑)。
──「1日に2回ひらめく時がある」と思えるだけでも、何かを創作するにあたり心が安定しそうですね。とは言っても、早起きは翌日の計画があるからできるもので、実践は難しそう。朝型や時間管理の魅力はわかったのですが、どう始めたらいいでしょうか?
本当は「管理」ってあまりいい言葉じゃないですけどね。「朝型を目指そう」「時間を管理しよう」と思ってやると、すぐ元に戻っちゃうと思うんですよ。それは「朝起きなきゃいけない」という義務になっちゃうので。脳の仕組みとして、気持ちいいと感じることしか繰り返そうとしないんです。私たちはそういうシステムの中にいるので、朝起きる理由が楽しくないといけない。好きな釣りに出かけるとかゴルフに行くとか、ご褒美がないと早起きしない。なので、早起きするという考えは1回止めて、朝に飲むコーヒーがおいしい、窓を開けた瞬間が気持ちいいなど、快適な時間を過ごすところから始めると、ゆっくりと朝型になっていくと思います。
──まずは日常に自分の「気持ちいい」を見つけることからですね。
これは現代に生きる、快適に生きたいと思っている人たちにとって有意義だと思っています。昔のように会社の仕事だけを全うすればいいという時代は終わっていきます。いや、私の中ではもう終わっていると思っています。私のような自由業ではない会社員の方も、今いる会社をどうやって利用して成長しようか、自立してどんな道に進んでいこうか、ということを考える時代じゃないですか? そして、そのような選択をしやすい時代だとも思うんです。もちろん、「自分が貢献して、この会社をよりよくする」という考えも良いと思います。
やりたいこと、好きなことをやって生きるという自分のプランは、優先順位として仕事の前に来ますよね。では、そのプランをいつやるかと考えたら、自分が元気な時間に機嫌よくやった方がいいんです。となると、会社に行く前にやるべきだし、そうしないといつまでたっても自分のプランが進まない。会社でヘトヘトになってから、自分のプランはうまくできないでしょう。がんばってやろうとなると、気持ちよくないので、元の生活に戻されちゃうんです。やりたいこと、好きなことをやろうと考えると、結果朝がいちばん良いんです。
──んん〜、ぐうの音も出ないです…。
今回、夜型の人がぐうの音も出せないように詰めていこうかなと思っています(笑)。
──ひっ! (笑)
大きな夢も道のりを細かくすれば「実現するかも」って信じられちゃう
──早朝4時からお昼12時までの8時間を20分ずつのタスクに区切る理由とは?
意図的に集中したりゾーンに入ったりしないためですね。
──え、何かを創作する時には、集中したいし、ゾーンに入れたらうれしいと思うのですが…。
集中したりゾーンに入ったりしちゃうと、間違ったことをしていてもそのまま進んじゃうんです。すると無駄なことも増えてくる。だから20分でやめる。20分マンガを描いて、20分ストレッチをして、20分庭を掃除して、そしてまた20分マンガを描く。この時、それまでやっていたことを見直せるんです。
──なるほど。
あと20分ごとに切り替えていくと気持ちにメリハリが出るし、それぞれのタスクに「できる・できないのジャッジ」を挟まないから、自然に続けられるんですよ。この方法で2週間ぐらい続けていると、いつの間にか以前よりできるようになっている。その報酬を得ると、脳に気持ちいい汁がぴゅっと出る。気づけば何年もやっていて、すごいスキルがついている。スキルを実感すると、面白いからやめられなくなる。習慣というか、もう中毒ですよ(笑)。
──やりたいことも、その中毒になるまでが大変ですよね。
特に歳を重ねると、「この歳だから始めても無理だよ」とか言っちゃって、まずは諦める理由を見つけて、だいたい始めないですよね(笑)。それももちろんわかります。脳はつらいと思うことはやらないから、諦める方向に向かうわけです。でも、ただ20分やるだけだったら続くんです。
──はい、そう言われると、自分もできる気がしてきたような…。
この時大事なのは、「ミッション」(達成したい目標)を設けて、それまでの過程を「ブレイクダウン」(分類、細分化)すること。例えば、サーフィンを始めたいとします。まずは、「今日はサーフィンのアイテムを見るだけ20分」とか「今日は海の近くの物件を見るだけ20分」とかね。そうすると楽しみながら、目標に一歩ずつ近づいていく。そんなことをしていると、サーフィンへのアンテナが立っているから、ある日サーフィンをやっている人と知り合ったり、「海の近くの家が空いたんだけど見てみる?」なんて欲しい情報がどんどん入ってきたりするようになる。今までスルーしていた情報をピックアップする能力も高まっていく。
──それは楽しそう。カツキさんは、実際どんなミッションを持っているんですか?
この本の中で語っていますが、水草水槽の世界大会でグランプリを獲るというミッションを持って続けています。本来、趣味の一つだし、世界でいちばんにならなくてもいいじゃないですか。でも、グランプリを獲ったほうが楽しいと思うんです。グランプリに輝くまでにやることをブレイクダウンして、具体的にタスクに入れてやっていくと、「いずれ実現するかも」って思えてくる。やりたいことを諦めなくていいと思えるから、何事にも能動的になれるし、新しい挑戦にもワクワクするし、生活に面白味が増えるんですよ。
──素敵ですね。朝の8時間を20分で区切っていくと、どのくらいのタスクを入れられるんでしょうか?
20分ずつ区切ると20項目が限界。トイレに行ったり宅配便を受け取ったり、イレギュラーの行動もありますから、8時間フルに詰めることはできません。
──20項目のタスクで、やりたいことをすべて網羅できるんでしょうか?
やりたいことがたくさんあるので、基本溢れてますね(笑)。でも、そのうちタスクが完了するので、そうしたら新しいタスクを入れます。タスクの組み方としては、起きたては頭が働かないので、部屋を掃除したりコーヒーを淹れたりしてエンジンをかけつつ、起きて1時間から1時間半後に、今自分がいちばんやりたい重要なタスクやアイデアが必要な創作活動を持ってきます。後半は疲れてくるので、頭より手を動かして行う作業を持ってきますね。
──なるほど、すごく面白いですね。
20項目のタスクに分けて進めようとすると、自分の中の優先順位も明確になりますし、ずっと続けていると「このタスクはこれくらいで終わるな」と予想ができて、新規の仕事を受けやすくもなりますね。自分のキャパを把握できる感じ。頑張り次第でできるとなると、快適と反してしまいます。
──仕事をしていく上で、これは非の打ち所がないですね…。
ぐうの音も出ないですよね?(笑)
──8時間ぶっ通しでタスクをやっていく中で、元気をキープできるものですか?
朝4時に始めて、日の出を迎える7時くらいまでやったら、だいたい大きい仕事も終わっているので、「ここから一日が始まるぞ」と思ったら元気になっちゃう。それからタスクを進めて、12時になる頃には疲れていますが、その日のタスクは完了しているので「ここから自由だよ!」となって、また元気になる。どんどん報酬を得られるので、ずっと気分が良いんですよね。麗しき、魅惑的な時間を失ったけど、別の快楽に溺れている状態なのでぜんぜん問題ない(笑)。
──す、すごい!
無自覚な「快適」を意識すれば自分の機嫌を取ることだってできる
──いいことづくめの“朝型時間管理”ですが、知り合いにすすめることはあるんですか?
仲間の中に、「最近、体の調子がおかしい」とか「メンタルが安定しない」という人がいたら、生活スタイルを聞きつつ、「ちょっとコーチングさせてもらっていい?」と言って、積極的にアドバイスしますね。それが私にとって、重要なサンプルにもなりますから。
──その際、どんな話をするんですか?
今回お話したことも伝えますし、あと『今日もまたそんな日〜』には出てきませんが、「朝の創作メソッド」というサイトを教えます。これは、私が去年までの20年間、大学で授業をするなかで学校教育のプログラムとゼミの財産としてまとめたもので、フリーとして創作で食べていくという覚悟を持ったアーティストを志す学生たちに向けたもの。ですが、クリエイターを目指す方を含め、朝型生活に興味がある方にも教えています。順を追って読む必要もあるので、ぜひ「朝メソッドの進め方」というページから見てみてください。
──カツキさんが新刊『今日もまたそんな日 超朝型ルーティン生活の愉しみ』で伝えたかったことを教えてください。
私はデビューしてから40年を迎えるんですが、40年間在宅で働いています。同時に長年いろいろな学生さんと触れ合い、大学で教えてきた知見も溜まっているので、そろそろ何か世の中に言えるだろうと思ったわけです(笑)。今後は在宅ワークが進み、さらに目標を胸に自分が思い描くプランで生きていく時代になってきて、個々のスキルを磨くことが大事になってくるだとうと思うんです。そういう社会に、貢献できることがあれば、幸せだなと。
──読んでいて、確かに“増える在宅ワーカーのための指南書”だなと思いました。
ありがとうございます。あともう一つ理由があって、実用書や啓発書が溢れすぎている現場に違和感を感じていて。そういう類の書籍は、読んでいるうちは気分も高まっていいのですが、多くの場合、読者に「やるべきだ」「やらないとやばい」という気持ちにさせるんです。そういう義務や使命や責任で始めると、やっぱり元に戻りますし、「これを繰り返していてもな」と思うんです。
そういう切り口ではなく、自分が何をしていたら気持ちよくて、楽しくて、喜びがあるのか、「快適」や「心地良さ」からのアプローチを探っていくほうが、元に戻らなくていいんですよ。実際、喜びや楽しさがわからないままがんばり続けると、我慢して自分を押さえ込む人になって、真面目で責任感のある人こそ病んだり潰れたりしちゃう。がんばりも我慢も日本の美徳。真面目も責任感も大切。だけど今こそ「自分に甘く!」「逃げられるものは逃げろ!」「ふざけろ!」と誰かが言ったほうがいいんじゃないかと思った。
──「仕事は苦しいもの」という考えで耐え忍んでしまう人は、まだまだ多いのかもしれません。
あと、この本で「快適」という言葉を何度も出しているのですが、理由があって。「快適」って、あまり自覚しない感覚なんですよね。例えば朝起きて、「機嫌がいいな。作品も煮詰らなくて作れるな」と感じる時に、それが早起きしているからだって、たぶんわからないと思うんですよ。だからこそ、「快適」にフォーカスして、自分が自覚できていないところにまで細やかに観察してみることで、自分の機嫌を取ることができるようになるんです。気持ちを安定してコントロールするために、「快適」に意識を向けてほしいなって。
夜の闇から生まれたドロドロした感情が人の心を打つ…は嘘だった!?
──カツキさんはそもそも夜型だったんですもんね…。もう夜型に戻ることは…?
めちゃくちゃの夜型でしたし、「創作は夜でないとダメ!」って思っていましたよ(笑)。夜こそ芸術の時間で、不健康=芸術家の証。アイデアを自分に下ろしてアウトプットする仕事ですから、やっぱり宇宙にチャネリングしてエネルギーをもらうようなことをしないといけない。誰も起きていないような静かな時間に1人になって、ぐ〜っと自分を追い込んで生み出す。それこそ健康的な生活なんて蔑んでいましたし、そういう病的な闇から生み出したモノにこそ説得力が宿って人の心を打つと思っていたんですよ。ずっとタバコを吸って、乱れた不健康な生活の中から心を描く、とかね(笑)。鬱々とした“太宰感”と言いますか、昭和の芸術家のイメージだったのかな。すっかりそう思っていました。
自分の創作スタイルも作品も、メジャー路線じゃなかったですから。『ドラゴンボール』とか『ONE PIECE』とは違って、私のマンガは昼間に読むものじゃないし、“アンダーグラウンド”や“オルタナティブ”という世界を愛しているので、そういうやつが朝早く起きていたらダメなんですよ。やっぱり“オルタナティブ”って朝じゃなくて、夜。
──“アングラ”や“オルタナ”の世界は、そうやって作られていたんですね…。なかなかハード…。
だけど、そんなマインドを疑う余地が出てきたのが、これまた並行して岡本太郎を研究していたとき。岡本太郎は仲間の文学者と「夜の会」という組織を作って、芸術について侃々諤々と議論を重ねていたわけです。そして、太陽の塔を作ります。手を広げて体を反って佇んでいるような、全体的に太陽の光を受けているように見えませんか? いろいろ岡本太郎について調べていくのですが、岡本太郎の一日の生活がわかる資料はなかなかない。
岡本太郎のパートナーだった岡本敏子さんにお会いする機会があって、「太郎さんってどんな生活をしていたんですか?」と聞いたんです。敏子さんは「私はいつも6時に起きるの。その時もう、太郎さんは必ず目覚めてた」と。どれだけ夜遅くまで飲みに出ても、必ず朝起きていて、うわーって描く、と。「あの岡本太郎が朝型!? なんだよ、イメージ違うよ!」って大きなショックを受けたんです。
そこから創作と睡眠の関係が気になり、次にマンガ家の生活に目を向けてみました。私がすごく影響を受けて、“夜を徹して描き続けたマンガ家たち”の生活を調べ始めたんです。手塚治虫先生をはじめ、赤塚不二夫先生、石ノ森章太郎先生は、睡眠時間が極端に短かったり、夜な夜な飲みに出掛けたり、いわゆる不健康な生活をされていました。ただ、皆さん比較的短命なんです。それぞれ、60歳、72歳、60歳で亡くなられました。では、他の偉大なマンガ家はどうでしょう。
さいとうたかを先生は84歳で、水島新司先生は82歳で、松本零士先生は85歳で、楳図かずお先生は88歳まで生きられました。ちばてつや先生は、現在休筆されていますが、85歳です。この方たちはどういう生活かというと、野球やゴルフ、ルーティンのウォーキングなどで体を動かしていた。
藤子・F・不二雄先生は、ずっとルーティンを続けていたんです。毎朝電車でアトリエに通勤して、マンガを描き続けた。この事実を私は小さい頃からなぜか知っていて、大人になっても「なんで自由業なのに、満員電車乗る必要があるんだ」と疑問に思っていました。でもやはりというか、だからそこ、あの膨大な創作量だったのだなと。ここまで来ると “夜型でもダメじゃない理由”を見つけようと意地になってきて。
歴史上の芸術家はどうだろうか。モネやピカソなどを調べたら…ことごとく朝型(笑)。夜型の人はいないか調べたら、カフカがいました。短命でした…。ここで、創作活動と睡眠時間の相関関係を確信しました。それもあるから、夜型にはもう戻らないですね(笑)。
──納得するお話ばかりで、最後までぐうの音もでなかったです…。そういえば、カツキさん自身、創作に変化はありましたか?
オルタナ感もアングラ感も闇もドロドロもなくなって、ペラッペラ。薄っぺらくなったと思いますよ(笑)。
──薄っぺらくないです!(笑) この本から、朝の光の気持ちよさや庭の空気の清々しさ、立ち上るコーヒーの香りなど、“心地良さ”を感じました。
いや〜、どんよりした闇とか澱みってカッコいいじゃないですか(笑)。そういう意味で、若いうちに、あのドロドロを生み出す、感情優位になる時間は、ちょっと経験してもらった方がいいとも思いつつ。私は”太宰感”も失って、ドロドロしなくなりました。『走れメロス』の「メロス」がいなくなって、フィジカルな「走れ」だけが残って、おかげさまで健康です。まあ、そんな感じです(笑)。
『今日もまたそんな日 超朝型ルーティン生活の愉しみ』
タナカカツキは子どもの頃から憧れたマンガ家となり、『サ道』で大ブームを起こしてからも、「努力」「ガンバリ」からは逃げてきた。どうすればやるべきことをこなしつつ満たされた日々を送れるのか? 答えは「快適」を極めることだった。脳にとっての心地良さを求めた先にあったのは朝4時起床のスーパールーティン。ととのえられた生活、それは最も避けていたはずの自己管理の世界だった…。マンガ本編に加え、「快適」を掘り下げる精神科医・星野概念氏との対談コラムも掲載。
タナカカツキ著
集英社 ¥1,540
1966年10月7日、大阪府生まれ。85年、マンガ家デビュー。これまでの代表作に、『逆光の頃』、『バカドリル』(天久聖一との共著)、『オッス!トン子ちゃん』、『マンガ サ道〜マンガで読むサウナ道』などがある。また、カプセルトイ「コップのフチ子」の企画原案を務める。さらに、「世界水槽レイアウトコンテスト」世界ランカーの顔も持つ。日本のサウナ大使として活動するかたわら、22年に渋谷にオープンしたサウナ施設「渋谷SAUNAS」を総合プロデュースする。そのほか、映像作品を手がけるなど、さまざま分野で活躍している。
公式HP:https://www.kaerucafe.com/
公式X:https://x.com/ka2ki