サウナの1周目、2周目、3周目

サウナの1周目、2周目、3周目

文・ 草彅洋平(サウナ研究家)

 サウナ界には「最初からサウナを好きな人は誰もいない」という金言がある。僕が大好きな言葉の一つだ。

 一般的にサウナにハマるきっかけとしては、サウナ室を出た後に水風呂に入り、続けて外気浴をした際、ボーッと放心状態になったり、恍惚とした心持ちになったり、そのなんとも言えない良い気分の虜になることからスタートする。だが、冷水浴はサウナ室からの急激な温度差もあり、初めはかなりの抵抗がある。そして一度水風呂を拒否してしまうと、サウナ浴の良さはまったくわからなくなる。

「サウナはこんなものか」「サウナの良さがわからない」という人は、水風呂を苦手とすることによる誤解から発生する。

 実はサウナ好きで知られるようになった僕もその一人だった。水風呂はマッチョ、すなわち体育会系しか入れないものだと思い込んでいたし、心臓に負荷がかかることが怖く、全力で拒否していた。ところが友人に連れられて、思いきって一度水風呂に入って開眼すると、もはや水風呂なしでの入浴が物足りない身体になってしまった。いまでは「サウナより水風呂!」と、水風呂ありきで物事を考えるくらい、重要性に気づいてしまったのだから、自分の心変わりが空恐ろしいくらいである。

 銭湯でも自ら進んで水風呂に入るようになり、温冷交代浴を楽しんだり、サウナの真の魅力に目覚めるまでが1周目だと僕は思っている。自分も42歳になるまで、こんな面白いものがこの世に残されているなんて気づかなかった。

 というわけで、この文章を読んでいる人で、まだ水風呂に入ったことがない人がいるのであれば、一度だけ騙されたと思って我慢して入水してみてほしい。入浴後に身体を拭いて、しばらく軒下で目をつむり、肩の力を抜いて休んでいると、日常では気づかなかった、鳥の声や風の音が聞こえてくるはずだ。するとこれまで味わったことのない、なんとも言えない気持ちにあなたはなっているだろう。これがサウナの魅力を知っている人か知らない人かを分ける、本当のスタートラインである。だからこそ「最初からサウナを好きな人は誰もいない」という言葉が存在するのだ。

 こうしてサウナにハマった人が次に熱を入れるのは「サ旅」(サウナをメインに旅をすること)や「サ飯」(サウナの後のご飯)、そしてサウナグッズを買い込んだり、サウナとそれを取り巻く状況を深掘りし(ディグっ)ていく一連の行動だ。友人をサウナに誘って、啓発活動をしたり、より熱いサウナや冷たい水風呂にチャレンジしていくのも2周目ならではの人だろう。

 ちなみに僕は2周目の時点でサウナ中毒者、つまりは〈サウナー〉を自称する人にありがちな「ホームサウナ」(毎回行く近所のサウナ施設のこと)という概念をなくしてしまった。まだ行ったことのない、新しいサウナを探索するのが楽しすぎて、同じサウナに行くことを諦めたのだ。

 サウナ専門メディア「サウナイキタイ」には、現在約1万軒弱の施設が登録されている。1日1施設訪れるとして、365日で365施設。すなわち26〜27年ですべての施設を制覇できるのである。というわけで完全制覇に向けて、日々旅のようにサウナを巡る生活を送るには、「ホームサウナ」は不要だったのだ。

 こうしてさらに熱を帯びてしまった人が3周目の状態、自ら温浴施設を経営したり、サウナグッズをプロデュースして販売する人へと進化する。サウナで汗を流すのではなく、サウナのために汗を流しはじめるのだ。これを業界では〈プロサウナー〉と呼ぶ。単に営利目的に走ったり、自宅の庭にサウナを設けただけでは〈プロサウナー〉とは言い難い。お世話になったサウナにお礼をしようと、サウナの未来のために尽力してこそ、〈プロサウナー〉であると指摘する人もいるくらいだ。

 僕はいままで誰も解明しなかった、サウナが日本にどのように入って広まったのかをまとめた『日本サウナ史』という歴史書を自費出版した。つい先日には、サウナにまつわる言葉を集めた『サウナ語辞典』も上梓した。一向に金にはならぬ仕事だが、後世にサウナを残す仕事をしたいと野暮なことを考え、いまではサウナを学問として研究する学部をどこかの大学に作りたいと本気で考えている始末である。

「最初からサウナを好きな人は誰もいない」が、一度火がついたらこれほど熱を帯びるのもサウナゆえだろうか。もっとサウナのことを知りたいと思う。


YOHEI KUSANAGI
1976年東京都生まれ。編集者・サウナ研究者。サウナカルチャーに文化系の風を送り込むCULTURE SAUNA TEAM “AMAMI(アマミ)”を主宰。フィンランド政府観光局公式フィンランドサウナアンバサダーを務める。今秋『サウナ語辞典』(誠文堂新光社)を上梓。



Photo:Kenta Sawada