NEO CLASSIC CARS 30

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AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
2022.06.02

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)

小河昭太さん(学生)

アバルトの魔法にかかった小さなイタリア車

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)

「ホットハッチ」「ボーイズレーサー」――かつてこんな言葉がクルマ好きの間で流行った。プジョーやフォルクスワーゲン、ランチアなど、各社のハッチバックにスポーツモデルがこぞって登場し、若者たちはそれらを意のままに操ることに夢中になった。だが、そんな時代の波が訪れるはるか前から、イタリアの小さな自動車メーカーでは、百戦錬磨のチューナーの手を借りた名車が生まれていた。それが「アウトビアンキ A112アバルト」である。

自転車メーカーとして知られるビアンキの自動車部門として1955年から96年まで存在したアウトビアンキは、57年に小型車「ビアンキーナ」を世に出し、69年に「A112」を発表。A112は7度のマイナーチェンジをうけ、85年まで製造された。その中でも特に人気を博したのが、マフラーメーカーでありチューナーとして名をはせたアバルトによるハイパフォーマンスモデルだった。A112アバルトは982cc、42馬力という非力なOHV4気筒エンジンを1050ccに拡大、最終的には70馬力にまでパワーアップした。

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
A112アバルトの車重はわずか700kgほど。全長3268mmのボディは、駐車枠のあまりを見てもわかるように、現代では驚くほど小さい。

今回登場するのは、後期にあたるシリーズ6。若きオーナーの小河さんは、人生初の愛車でありながら、なんと不動車からセミレストアをして公道復帰させたというから頭が下がる。

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
単純で操作性に優れたインパネ。独特な形状の2本スポークハンドルは純正品だ。

「父がクルマ好きだったこともあり、F1を見てフェラーリを応援するような少年でした。はじめて乗るクルマはラテン系と決めていて、プジョー106なども候補に探してみたり。ビアンキは価格が高騰し始めていたので視野に入れていなかったんです。が、良いタイミングでお世話になっているお店からお話をいただき、修理を前提に譲っていただきました」

ショップの軒先を借りながらお父様と二人で1年かけて修復したが、道のりは当然ながら険しく、ボディから機関系まですべてに手を入れる必要があった。

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
ショップの軒先で徐々にバラされていく小河さんのA112アバルト。床に流れてしまった赤い液体はクーラント(冷却水)だ。

「“納屋モノ”といえば聞こえはいいですが(笑)、20年以上動いていなかっただけに、タンクやホースをはじめ、燃料まわりはサビがまわっていました。燃料フィルターをこまめに交換しながら不純物を出しての繰り返し。はじめは7kmくらいで詰まっちゃって…。1週間に1000km乗るなどテストを重ねました。おかげさまで今はだいぶ落ち着いています」

足回りやブレーキまわりのパーツもリフレッシュ。幸いにもボディに致命傷ともいえるようなサビはなく、板金は将来の課題とした。それにしても、メーカーが存在しないクルマなのにパーツは容易に出るのだろうか。

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
ブロックからピストン、コンロッド、バルブにいたるまで分解されたエンジン。作業は実質、新品のパーツも組み入れたフルオーバーホールだった。

「驚きましたが消耗品の類はほぼすべて新品が見つかります。内外装の樹脂系パーツは大変なものもありますが、ボディパネルはあります。基本は社外品ですが、クオリティも満足がいくものが多いです」

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
エンジンのヘッドカバーに入ったアバルトの刻印。これだけでも特別な気分になれる。

ホットハッチの代名詞たるA112の最大の利点は、軽やかな車体を活かした鋭い加速。アクセルペダルを踏んだ分だけダイレクトにぐいぐいと前へ進む。そしてクラッチを一刀両断し、素早くシフトアップするたびに背中を蹴っ飛ばされたような駆動の伝達を感じるのだ。

「とはいっても絶対的なスピードは速くないのが面白いところ。車内に響き渡るアバルトマフラーの野太い音、絶品ですよね」

AUTOBIANCHI A112 ABARTH(1983年式)
アバルトといえば、フィアットの小型車をチューンしレースで活躍したことで知られるが、その起源はマフラーだった。「マルミッタ・アバルト」と呼ばれる美しい形状と音色をもつマフラーにはファンが多い。

運転席と助手席は新幹線の座席のような近さだが、走行中の車内で話すには声をはる必要がある。クーラーだって大して効かない。それなのに、乗っていてこれほどクルマ好きを笑顔にさせるハッチバックが他にあるだろうか。カルロ・アバルト直伝といえるアバルト マジックは、40年の時を経てもクルマ好き男子の五感を十分に刺激することを痛感した。

小河昭太さんプロフィール画像
学生
小河昭太さん

2002年生まれ。昨年、初の愛車となるアウトビアンキA112アバルトを入手。大学生活の傍ら、若者を中心としたクルマ好きコミュニティなどに参加し、趣味の輪を広げている。

最終更新日:2024.03.22

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