文化系ネオクラシック車と30人の男たち
1980〜90年代のネオクラシック車が人気だ。
メーカーの姿勢が伝わる個性的なつくりや、
機械の調子を感じながら付き合うのが楽しい。
そんなクルマ生活にハマった30人を紹介します。

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メルセデス・ベンツ 300GD
(1989年式)
干田哲平さん(フォトグラファー)
洗練さが漂う初期のゲレンデヴァーゲン
メルセデス ベンツの「Gクラス」は、今やすっかり日本におけるラグジュアリーカーの代名詞になった。角ばったボディに張り出したフェンダー、大きなホイール。仕様は真っ黒なAMGからラギッドにカジュアルダウンされたものまでさまざまだが、とにかく都内で1kmも歩けば10台はゆうに見つけられる。
「ガチなSUVを街むけに乗る」。これはアウトドアウェアやスポーツウェアを都会のファッションに取り込むこととも近い。かつては本格的なものしかなかったが、今やもとより街で使う用途で普及、人気を得るという構図だ。Gクラスの源流は1979年までさかのぼる。
UOMOでも活躍するフォトグラファーの干田哲平さんのGクラスは、「ゲレンデヴァーゲン」と呼ばれる前期型(W460)。79年から90年まで製造されたW460は、現代のGクラスとは比べ物にならないほど繊細で素っ気ない。でもこの姿こそがオリジン。当時はラグジュアリーSUVなんて分類はあるはずもなく、ゲレンデはNATO軍の軍用車に採用される本格的な四輪駆動車として生まれた。

純正のホイールは「鉄チン」と俗に呼ばれる黒の鉄製。威圧的なストリートマッチョ感はないが、野生味のある男らしさが光る。
「撮影で名古屋に行ったときに、市内で前期型のゲレンデをはじめて見ました。その時はGクラスの何かはわからず、写真におさめて家に帰ってから調べました。現行のGクラスと比べてボディ幅がナロー(狭い)ですっきりとしているところが好きですね。古くても、こちらのほうがむしろ洗練された印象を受けるというか」
それまでは、同じくネオクラに分類されるBMW 3シリーズ(E30)のツーリングに乗っていたが、無骨ながら繊細さのある前期型のゲレンデが忘れられず、4年ほど前に乗り換えた。よほど遠方でなければ、撮影機材を積んで走りまわっている。

使いやすさだけを重視したインパネまわり。ステアリングも驚くほど細い。「エアバッグもないし、クーラーは効きません(笑)」。
「E30の3シリーズは立ち往生するなど故障に悩まされましたが、Gクラスはかなり頑丈です。個体のコンディションがよかったこともあると思いますが、一度も止まったことがありません。ただ、前期のゲレンデはとにかく部品がないのがネックなんです……。内装の部品に関しては絶版。機関系も含め、少なくとも本国から取り寄せることはザラです。到着するまでにも時間がかかります」

サポートがしっかりした純正シート。走りに荒々しさがあっても、こうした部分のクオリティの高さがドイツ車らしい。ドアの内張りとの色合わせも含め、実に洒落ている。

車幅いっぱいにリアゲートが開くわけではないが、積載力はさすがのひと言。車内を汚さないために布を敷くなどしてアレンジしている。
干田さんのゲレンデは、直列5気筒のディーゼルエンジンを積んだ「300GD」。いくら現行よりは軽いとはいえ、2トン以上もある車体を動かすのにはやや心もとない。迫力あるV8を搭載した現行モデルとは真反対の性格だ。
「正直言ってスピードは出ません。日ごろから飛ばすタイプではないですが、打ち合せや撮影現場へは心なしか早く向かうようになりましたね(笑)。E30の3シリーズと同様、このクルマもエアバッグがないですし、車体も強固なので常に安全運転は意識しています」。
2台のネオクラシックを乗り継いできた干田さんが、古いクルマに食指が動くのは必然。「修理不能な故障や破損が起きた場合でも、きっと同じモデルを探すと思います」と意思は堅いが、「2台持ちができるなら……」とたまには考えてしまようだ。
「もう1台は積載性など実用面を考えずにスポーツカーが欲しいです。フォード製のV8を搭載したイタリアンスーパーカーの『デ・トマソ パンテーラ』なんて夢ですが……乗ってみたいです!」

干田哲平/フォトグラファー
1983年生まれ。都内スタジオ勤務を経て、フォトグラファーの片桐史郎氏に師事。2015年に独立後は、UOMOやMEN’S NON-NOなどファッション誌を中心に活躍する。