ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_フロント

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ランチア・デルタ
HFインテグラーレ 16V

長谷川鉄馬さん(会社員)

幼少期に憧れた「ラリーのランチア」に乗りたくて

2022年にブランドの本格的な復活が発表されたランチア。イタリア・トリノの高級車ブランドであり、古くから先進的な設計思想をもつことでも知られる。1920年代には、モノコック(フレームとボディが一体構造)を採用した「ラムダ」を発売。その後もV型4気筒エンジンや、世界初のV型6気筒エンジンを開発し、60年代には前述のV4エンジンを前輪駆動方式と組み合わせるなど、その“尖りかた”は相当なものだった。

しかし、コストがかさむことで経営は次第に悪化。69年にフィアットの傘下に加わってからは、同社のコンポーネントをベースに高級志向でエレガントなクルマをつくり続けてきた。今回ご紹介する「デルタ」は79年にデビュー。時代はフォルクスワーゲン・ゴルフⅠ(74年デビュー)に代表されるハッチバックが勢いを増しており、デルタもトレンドを牽引した。

デルタといえば、世界ラリー選手権(WRC)での活躍でも有名。WRCは主に安全上の理由で、86年から参戦車両のグループ規定が大幅に見直された。ランチアの活躍ぶりは80年代前半から目覚ましいものがあったが(デルタS4という2ドアミッドシップのモンスターマシンがあったが、今回のクルマとは別モノ)、規定改正後も4WDのデルタを投入し、瞬く間にチャンピオンタイトルを獲得。改良を重ねて、快進撃は90年代前半まで続いた。それと同時に、市販のデルタにも様々なエディションが登場。多くのラリーファンやクルマ好きを虜にした。


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_イタルデザイン

車名につく「インテグラーレ」はイタリア語で「完全」を意味する。直線的なデザインは、ゴルフⅠも手がけたジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインによる。


濃紺の「HF デルタ インテグラーレ」に乗る長谷川鉄馬さんは、リアル世代ではないものの、幼い頃にランチアがWRCで活躍する姿を見て刺激されたひとり。

「赤と青のマルティニカラーをまとったデルタが大好きでした。リアルタイムでは(2000年代初頭)ランチアはとうに撤退していて、スバル・インプレッサや三菱・ランサーなどが活躍する時代でしたが、やはりデルタの箱っぽいデザインは他にはない魅力で…」

だが、学生の身分ではデルタを買うことも維持することも現実的ではなく、はじめはラリーとは無縁の楽しいヨーロッパ車を選んだという。


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_インパネ

水平基調で扱いやすいインパネ。スポーティな性格でも、出自は普通のハッチバックであることがよくわかる。ステアリングとシフトノブは社外製。


「はじめはBMW Z3を買いました。決して速くはないですが、FRスポーツカーの基本が学べる楽しいクルマです。その後にポルシェ・ボクスター(987型)、BMWミニのクラブマン(2ドア)などを経て、2022年4月に念願のデルタを手に入れました」

ラリー史に名を残す車種であることに加え、近年のネオクラシックブームのあおりを受け、デルタの相場は2倍、状態がよければ3倍にも高騰している。しかも状態が良い個体は減少の一途…。そんななか、長谷川さんは平塚にある欧州中古車店のホームページで、運よくこの個体を見つけた。

「中古車情報サイトにも掲載していないお店で売っていました。塗装はオリジナルではなく、ホイール(CROMODORAクロモドラ)や車高調(ビルシュタイン)も社外品でカスタムされていましたが、約300万円という昨今の相場では破格の安さだったこともあり、実車を見て即決しました」


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_ブリスターフェンダー

デルタ HFインテグラーレは、張り出したブリスターフェンダーが特徴。


今でも根強い人気を誇るデルタだが、実は冷却系や電気系統が弱いことから「宇宙一壊れる車」の異名を持つことでも知られる。もちろん、きちんとメンテナンスされた個体は例外だが、日頃から気候などを窺いつつケアして乗る必要がある。


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_16バルブの2.0L4気筒ターボエンジン

16バルブの2.0ℓ4気筒ターボエンジンは200馬力を発生する。エンジンが大きくなったことから、ボンネットが張り出すデザインになった。


「エンジンルームはぎっしりと詰まっているため、熱害がどうしても起こりやすいのが難点。自宅のある埼玉から東京までの移動にも使いますが、やはり外気温や渋滞情報にはシビアになります。買って数ヶ月ということもあってか、リレーの不具合以外、今のところ目立ったトラブルはありません」

ひとたび乗り込んでみると、そこには長い年月が経ったとはいえ、心を満たす上質な空間が広がる。高級志向のランチアは、常に洒落たマテリアルを内装に使ってきた。70年代に発売された「ベータ」や「ガンマ」などのシートにはゼニアの生地が奢られ、フェラーリのV8を搭載したセダン「テーマ 8.32」にはポルトローナ・フラウの極上のレザーが、そしてデルタには、アルカンターラ(人口皮革)が惜しげもなく使われた。それにデルタのセミバケットシートの絵柄はミッソーニによるものだ。ランチアほど洋服的なニュアンスをもつクルマは他にないだろう。


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_ミッソーニ_純正シート

ミッソーニによるストライプが美しい純正シート。WRCマシンのように、助手席下に車載用消化器を後付けしている。


「これまで乗ってきたドイツ車とはフィーリングが何もかも違います。走りに関してはピーキーかつダイレクト。昔のターボ車らしいトリッキーなレスポンスも楽しいです。果敢に攻めるよりは、高速道路を流すくらいが今の気分には合っているような。そして、やはり内外装のデザインが美しいですね。維持する上で不安もありますが、今は乗っているだけで幸せな気持ちになれます」


ランチア・デルタ HFインテグラーレ 16V_長谷川鉄馬さん

長谷川鉄馬さん/会社員
1994年生まれ。BMW Z3やポルシェ・ボクスター(987型)、BMWミニのクラブマンを乗り継ぎ、2022年にランチア・デルタを購入。