
「ユニクロ:シー」の作り方とは?
“究極のエフォートレススタイル”を提案して5シーズン目を迎えた「UNIQLO : C(ユニクロ:シー)」の2025年秋冬をフィーチャーしたプレスイベントが、韓国・ソウル特別市で9月3日(水)と4日(木)に開催。会場となった鍾路(チョンノ)区三清洞(サムチョンドン)にある「K.O.N.G gallery」と「Gallery DOS」には、地元の韓国をはじめ、日本や欧米から多くのメディア関係者が訪れた。

ちなみに、プレスイベント翌日の9月5日(金)より「ユニクロ:シー」2025年秋冬第2弾が全世界で発売。この本格ローンチに先駆けて、第1弾は7月18日(金)に発売済みである。このプレスイベントには「ユニクロ:シー」のクリエイティブ・ディレクター“も”務める女性デザイナーのクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)も姿を見せた。



クレアはグローバルブランドである「UNIQLO(ユニクロ)」のウィメンズ特別コレクションとして「ユニクロ:シー」が始動した2023年9月より参画。デビューシーズンの2023年秋冬と翌2024年春夏を経て、3シーズン目の2024年秋冬にメンズが加わったが、これとタイミングを同じくする2024年9月より「ユニクロ」全体(メンズも含む)のクリエイティブ・ディレクターに就任している。
要は、「ファッションのユニクロ」といえば、クレア・ワイト・ケラーなのである。



今秋冬の「ユニクロ:シー」のテーマは「Modernity in Motion」。定評のあるスウェットのセットアップシリーズのほか、フォーマルとカジュアルを融合させた躍動感のあるモダンなスタイルは過去4シーズンと同様だ。メンズで特筆すべきは、初登場となる2型の「極暖ヒートテックカシミヤ」と、東レと協業開発した機能素材である「PUFFTECH(パフテック)」や防水素材の「BLOCKTECH (ブロックテック)」を採用したアウターがラインナップ。招待客はシャンパンを片手に発売前のアイテムをチェックしていた。
ウィメンズのゲストデザイナーとしての抜擢から始まり、秋冬と春夏の通年での実績を評価されてメンズカテゴリーまで手掛けるようになり、今や「ユニクロ」全体のクリエイティブを統括。すべてのファッション業界人が注目するクレア・ワイト・ケラーとは、いったいどういう人物なのだろう?
ハロー! クレアさん

クレア自らが「ユニクロ:シー」2025年秋冬コレクションをプレゼンテーション。世界各国のメディア取材を漏らさず受け、インフルエンサーやゲストセレブリティーとの幾度ものフォトセッションをこなし、パーティーでのホストポジションで周囲に気を配るなど、クリエイティブ・ディレクターは多忙を極める。自身の「プリーツロングスカート」を軽快になびかせつつ現れたクレアが取材陣を前にして放った言葉は「いつでもどうぞ」の一言だった。
さあ、クレア・ワイト・ケラー=「ユニクロ」クリエイティブ・ディレクターに聞いてみよう。「ユニクロ:シー」の“作り方”とは?



――韓国で「ユニクロ:シー」2025年秋冬のプレスイベントを開催しようと思った経緯を聞かせてください。
この2年間で5回ほど、リサーチのために韓国を訪れていました。目的はトレンドやこちらの人々のスタイリングの観察です。ソウルはとても流行に敏感で、しかもミニマルなファッションを好む傾向が見受けられます。そして、新しいものと歴史あるものが共存している風景にも共感を持ちました。著名なK-POPスターが多くいて刺激を受けたことも理由のひとつです。
――今のクレアさんにとって、韓国が最も注目すべき都市ということ?
イエス。今のところリサーチにはベストなロケーションだと思っています。K-POPのスタイルを筆頭に、最新のトレンドがストリートに下りてきている。特にソウルのファッションは、エッジの効いたグラフィックな要素も見て取れます。日本のファッションはクラシックなルーツが根強く、アジアよりはアメリカに近いかも。
――「ユニクロ:シー」が誕生した2023年秋冬から一貫している“エフォートレス”について。今一度、その定義を教えてください。
5シーズン目を迎える今にあっても、大切なコンセプト。私にとっての“エフォートレス”とは、着心地やフォルムの問題というよりも、“難しく考えなくてもいい”というフィーリングです。あれこれ深く考えなくてもファッションを楽しめて、素敵なスタイリングが組める。前のシーズンのセーターと今年のスカートを合わせてもいいのです。シーズンを超えた普遍性のある着こなしもモダンなアプローチのひとつだと思います。
2025年秋冬のユニクロ:シー

――改めて、今秋冬の「ユニクロ:シー」の着想源と、テーマの「Modernity in Motion」について解説してください。
今秋冬は英国ヴィンテージのハリスツイードのカラーリングからインスピレーションを得ました。伝統というカテゴリーにあっても、ツイードで織られた生地をよく見るとマルチカラーであったり、ディープなリッチトーンで構成されており、これを「ユニクロ:シー」に取り入れてみようと考えたのです。そして、私にとっての「モダン」には2つの要素があります。1つは「動き」についての「モダン」で、制約がなく、動きやすく、軽やかに自転車に乗れるような工夫です。もう1つは「素材」についての「モダン」で、これは伝統をテクノロジーや科学の力によって、質感やシェイプにかつてない魅力を引き出す技術です。
――トレンドや流行というものの重要度は?
絶えず意識しています。「ユニクロ」の前はラグジュアリーファッションの世界で25年ほど働いていましたので、そのあたりには敏感です。今は流行りのようなものを自分なりに“編集”して、最も重要なエッセンスとして、洋服の在るべき場所に取り入れるようにしています。

――世界の至るところで「ユニクロ:シー」を着ている人を見かけます。
とても嬉しく、とても興味深いです。最近では、私たちの想定よりも若いZ世代が「ユニクロ:シー」を着てくれています。フーディーやスウェットパンツなどのスウェットシリーズがベストセラーになりましたが、それを自由なサイジングで取り入れている。
――Z世代はクレアさんに影響を与えている?
イエス。想定し得なかった若い息吹に心が弾みます。今秋冬はもう少し若い世代にもアプローチできるよう、着丈を短めにしたりハイウェストにしたり、フレッシュなプロポーションを提案しています。本来ならば伝統的なテイストだったはずのメンズカーディガンは、ジップ使いにしたりリブにスポーツの要素を取り入れてみました。メンズとウィメンズをクロスオーバーして着用するリクエストにも応えています。

――メンズのラインをどのように構築していますか?
メンズとウィメンズの違いを私なりに解釈すると、メンズのワードローブには確たる“クラシック”が根底にあると思っています。他方、ウィメンズはレングスの長短やオーバーサイズなどプロポーションの変化が本当に速く、トレンドに流されていきます。ある程度、メンズには一貫性があるので、私は基本のメンズワードローブにおいては細かいディテールにこだわるようにしています。素材にも関心を払い、テクノロジーと科学を駆使した素材開発にも力を入れています。
――パフテックやヒートテック、ブロックテックを取り入れたことで、学んだことは?
日本の素材メーカーとパートナーシップを組み、目的を持って細かくリサーチしながら共通のソリューション(解決策)に向けて協力し合うのは、とてもエキサイティングな経験でした。そして試行錯誤しながら気付いたのです。そのソリューションは、シンプルで美しく、ダイレクトなものであると。プロダクトに「ユニクロ」らしい機能性と実用性を担保できたことをとてもうれしく思います。
――日本のメーカーと直接やりとりをしたのですか?
もちろん。たとえば今秋冬のメンズにあるブロックテックコートは日本のような湿度でもべたつかずに着ることができるよう改良をお願いしました。試作品も何着も作り、もっと軽量でパッカブルにしたいと注文も付けました。
直筆のデザイン画を公開



――クレアさんにとって「ユニクロ」と「ユニクロ:シー」の違いは?
現代は経済的に厳しくても、誰もがスタイリッシュに遊び心をもって、ファッションを楽しめる時代です。そういったやりくりや方法こそが、私が考える“モダンなアプローチ”であり、「ユニクロ」と私の意義だと思っています。他方、「ユニクロ:シー」は実験室であり、アイデアの“ラボ”に近い。常に新しいデザインにチャレンジしています。若い人やコアな洋服好きに支持を得た「ユニクロ:シー」の一部のアイテムは、もっと広いレンジで、「ユニクロ」の商品として採用されることもあるでしょう。
――今はユニクロ全体のクリエイティブ・ディレクターという立場でもあります。デザインするうえで、「ユニクロ:シー」とメインラインと、どのように棲み分けていますか?
まずはピースの少ない「ユニクロ:シー」から考えます。最初にシーズンカラーを決め、多方面からのリサーチを反映しつつ、自由にデザイン画を描きます。その過程で、もっとシンプルで実用性のある要素がいくつか出てきます。それらを元に通常の「ユニクロ」のメインラインに幅を広げ、“現時点でのパーフェクト”と言える白いシャツ、Tシャツ、チノ、ジーンズに落とし込んでいきます。「ユニクロ」の始まりが詰まった「ユニクロ:シー」は、アイデアのメルティングポットです。

――「ユニクロ」の宿命である「大量生産」は、クリエイティブの制約になりますか? 逆に、クリエイティブを生み出す契機にもなり得ますか?
とてもチャレンジングな毎日です。マスプロダクション、すなわちスケールメリットを誇るということは、「すべての人に受け入れてもらえる」デザインと、「どの国のどのようなシーンでも着てもらえる」まで、文化的側面を含めて考え尽くす作業が必要です。確かにジップポケットは有能ではあるけれど、それがTシャツの付属である場合、ある人にとっては抵抗があるかもしれない。デザイナーとしては付けたいけれども、誰もがエフォートレスにスタイリングできるワードローブとしてはどうなのか。グローバルであり、普遍的であることを常に意識しています。
――ありがとうございました!
インタビューを終えて…

逆説的ではあるが、エフォートレスに“考えずに着てもおしゃれに着こなせる”「ユニクロ:シー」のデザインは、世界中の人々の笑顔を見据えて難しく“考え抜いた”成果物である。当然のごとく、「究極の普段着=LifeWear」を謳う「ユニクロ」メインラインとのシナジーも、クリエイティブ全体を統括するクレア・ワイト・ケラーの手腕に掛かっているのだ。果たして、2025年8月期・上期におけるファーストリテイリング社の「国内ユニクロ事業」は、売上収益が5,415億円(前年同期比+11.6%)、「海外ユニクロ事業」も売上収益1兆141億円(前年同期比+14.7%)と、絶好調に推移している。
飾り気のないクレアの立ち振る舞いからは数字への執着は感じられないが、その重圧たるや、文句なしに世界一のスケールである。その上澄みにある最もセンシティブな「ユニクロ:シー」を、クリエイティブの源泉であるメルティングポットを、あれこれ難しく考えずにエフォートレスに着こなしてみたい。これぞ、「大人のユニクロ」だ。
《オマケの1枚》

オマケの1枚。ウィメンズの「コットンコクーンシャツ」(ソリッドカラー)の日本展開カラーはホワイトとネイビーだが、実は“台湾と香港”の限定カラーとして「ワイン」が存在する。なぜに韓国開催のプレスイベントにあったのかは謎だ。パートナーへの海外出張土産にいかがだろう?
「25FW UNIQLO:Cコレクション」
グローバルローンチイベント@韓国
開催日:2025年9月3日(水)・4日(木)
場所:Gallery K.O.N.G./韓国ソウル特別市鍾路(チョンノ)区三清洞(サムチョンドン)