2025.05.01
最終更新日:2025.05.01

【スタイリスト・小沢 宏の私的仕事バッグ論】大は小を兼ねると言うけれど【エルメス、フェリージ、プエブコ】

大は小を兼ねると言うけれど 文/小沢 宏

小沢 宏プロフィール画像
スタイリスト/エディストリアル ストア店主
小沢 宏

長野県上田市のセレクトショップ「エディストリアル ストア」を拠点に活躍。都内でも定期的にポップアップイベントを開催する。自他ともに認めるショッピングアディクト。

 「バッグを持つのが嫌なのでポケットに入るモノしか持たない」とか「海外出張にコンビニ袋で行ってきた」とか、僕にとっては武勇伝としか思えないようなツワモノの話を聞くことがある。正直言ってまったく理解ができない。もし出かけた先でペットボトルの水を買いたくなったらどうするのか? 海外で着替えしなくていいのか? オシャレなレストランにコンビニ袋を持っていけるのか? 考えだすとキリがない。

 僕はまったく正反対のタイプ。普段使いのバッグがそもそも大きい。東京に住んでいた頃から「出張ですか?」と打ち合わせ先で軽いジョークをかまされるのはしょっちゅう。ミラノ、パリのファッションウィークに通っていた時期は、行きの飛行機から重量オーバーで結構な超過料金を払っていた。でも、考えてみて欲しい。数万円の超過料金を払う方がマシなのか、出張先で着たい服がなくて仕方なく何万円も払って2度と着ないかもしれない服を買う方がマシなのか。僕は紛れもなく前者なのである。つまり僕は常に大きなバッグを抱え、その中にたっぷりのモノを入れ込み、その重量にへきえきしながら日々を過ごしている、というわけだ。

 さて今回のお題は「お仕事バッグ」。ここでお伝えしたいのは、自分には仕事と遊びの境目が存在しない!のである。わざわざ「!」マークをつけるほどでもないのだが、すべての原点はここにあるので一応強調しておきたかった。よくヒトから「小沢さんの趣味ってなんですか?」って聞かれるのだが、僕の答えはいつも同じ。

「仕事と遊びがシームレスなんだよね」

 そもそも僕はスタイリストを立脚点として、服屋の店主やら、街や人のディレクションにまで仕事の範囲が広がっている。毎日暮らして経験して感じることが全部仕事に活かされている。成果物を作って対価をいただくことが仕事なのかもしれないが、僕にとっては友達と食事したり、上田から新幹線で東京駅に降りて人々の流れの中を足早に歩くことさえ仕事と捉えることもできる。

 逆もまた然り。大きなプロジェクトを任されてたくさんの人や予算をまとめて進めていくことも大きく捉えると「遊び」と言えないこともない。ってことはですよ、ここで紹介する僕の「お仕事バッグ」は大多数の人にとっては「遊び用バッグ」かもしれない。でもね、世の中どんどんそっちの方向に向かっているのではなかろうか。

01|アンダーステイトメントなフェリージのショルダーバッグ

フェリージのショルダーバッグ
フェリージのショルダーバッグ 2
鴨志田康人氏が監修した新シリーズ。こちらは2種のレザーを使用。縦30㎝×横44㎝×マチ8㎝ ¥198,000/Felisi(Felisi 表参道ヒルズ)

 最初にご紹介するのはイタリアのブランド「フェリージ」のショルダーバッグ。これはユナイテッドアローズの創業メンバーで、2023年秋冬からディレクターを務める鴨志田康人さんが手掛けているシリーズだ。鴨志田さんには公私ともによくしてもらっているのだが、ご本人の佇まいとバッグの存在感がイコールという稀有な逸品。鴨志田さん自身はわりとコンパクトなバッグをお持ちのことが多いが、このショルダーバッグをサッと斜め掛けしてミラノでも(新小岩でも)闊歩する姿が想像できてしまう。

02|なぜ世の中でもっと流行らないのか分からないプエブコのトートバッグ

プエブコのトートバッグ
プエブコのトートバッグ 2
海外のジャンク品などが着想源。左のバッグのハンドルには、インドの学生服のベルトを使っている。バッグ(左)縦41㎝×横66㎝〜70㎝×マチ25㎝ ¥7,700・(右)縦32㎝×横48㎝×マチ23㎝ ¥3,300・ポーチ縦25㎝×横22㎝ (各)¥1,100/PUEBCO

 ある意味、小沢の代名詞ともいえるのが「プエブコ」のバッグである。一体いくつ持ってるんだろう。以前、東京に住んでいた時も近所にショップがあったし、渋谷パルコでポップアップをやった時は隣の店だった。ココのを持ってるとだいたい「どこのですか?」と聞かれ、次に会った時には「マネしちゃいました」とお揃いのモノを持ってたりする。L.L.ビーンのトートバッグも素晴らしいけれど、最初は硬すぎて、自重もあって慣れるまでに時間がかかる。その点こちらは買ったその日からお友達、それもめっちゃチャーミングなトモダチになれるはずだ。なんでもっと流行らないの?と嘆きつつ「ボクだけのキミでいて欲しい」という変態ワガママな存在がプエブコなのである。

03|じゃない方のエルメスのボストンバッグ

エルメスのボストンバッグ
エルメスのボストンバッグ 2
珍しいキャンバスとレザーのコンビデザイン。縦27㎝×横43㎝×マチ20㎝/私物

 最後は私物の紹介を。バッグに限らずあらゆるモノを空気を吸うように買いまくっているので何年前に買ったのかまったく思い出せないのだが、多分パリのフォーブル・サントノーレの本店で買ったであろうエルメスのボストンバッグ。買った当初は大事にし過ぎていて、そして今となっては登場するシチュエーションが見いだせずに「永久欠番」化しているふしもある、微妙な立ち位置。世間では「エルパト」(エルメスのバッグを求めて毎日のようにショップ詣でをする人々)なんて揶揄されているが、そんな人からは見向きもされない品だろう。でもそんな「じゃない方のエルメス」を持って仕事してるのがなんとも小気味いいではないか。

 ここで紹介したバッグはすべて大きなモノばかり。仕事も遊びも同じスタンス、東京と上田を毎週往復、と一般のファッション好きには当てはまらないモノばかりオススメしてきた。「大は小を兼ねる」と昔の人は言ったけれど、こんなに大きなバッグいらないだろ!っていう気がしないこともない。でもごく一部の読者がピピッと感じてくれたら本当に嬉しいことだ。

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