40歳ともなれば、積んだ経験、仕事と家庭、出会う人…それらとともに自分だけの定番が変わりゆくもの。そんなエピソードを8人の大人がエッセイでつづる。
白シャツ・スラックス・革ベルトはマインドセットを更新する
文・池田 尚輝(スタイリスト)
日々新しい服を見て触れられる職業なので、ついつい増えるアイテム達。発見も驚きもある楽しさに醍醐味を感じるが、手に入れたアイテムを味わい尽くせていないような心残りも微かに感じる。ここ数年はドレスダウンという感覚に凝っていて、ドレスアップ寄りのアイテムは好きだけど普段着としては全然着ていなかった。特に白シャツやスラックスだ。上質なドレスアイテムに初めて触れる時は、アイテムの歴史や、本来あるべき姿などが念頭にあるので、なかなか適当にこなすことが出来ず、ちゃんとした時に使うべきものとして、クローゼットに後生大事に保管されてしまっていたのだ。
ある日、集めている90年代のイギリスの雑誌「THE FACE」誌の中で、ヘルムートラングのプリントTの上から同ブランドの白シャツを羽織り、その上にブルゾンを重ねたヘアスタイリストのユージン スレイマンの写真を見つけた。プリントTとジップアップブルゾンという自分には馴染み深いアイテムに挟まれた白シャツが新鮮で、すぐに真似てみる。ジャケットをデニムで着崩すような感覚で、白シャツをラフに着るのが気に入る。そして、スラックス。クリースのガッツリ入ったスラックスは穿くとかっこいいのだが、他所行き感が気になり結局は穿かない事が多かった。古着のルースな感覚で穿くスラックスはたまに穿ける。となるとクリース入りのスラックスは特別なマインドの時に穿くことになりそうだが、特別な時こそ普段着感覚で出掛けたいことも思い出す。考えあぐね、余程の事がない限りはクリース入りが登板出来ないではないかと思い至り、もはやクリースを思い切ってアイロンで消してみることにした。仕上がりは、綺麗な筒状で適度にカジュアル。スウェットも合うし、ジャケットを着てもかしこまった感じにならず、かなり使えそうな予感がする。そんな逡巡を経てやっと、初めからノンクリースのスラックスがもたらしてくれる効果に気づく。新調するならどんな一本がいいかもよく分かる。最後に、ベルトについて。ウエストマークする時に使おうとは思っているものの、普段から使っていないと相性の良いパンツのバリエーションの幅が摑めない。さらにウエストマークしていない時でも、上着やニットを脱ぐ時のちょっとした動作で不意に見えたりするから、靴下なんかと同じで気が抜けた状態は戴けない。つまり日頃から気分に合ったものを選んでおきたい。
ワードローブのアップデートというと、探しに行くことを指しそうだけれど、自分のマインドセットをアップデート出来れば、とりあえず今あるものでもかなり違ってくると思う。そしてまたそうした更新を経ると新しいアイテムにも目がいくようになる。気がつくと以前と風景が違ってくる、楽しい日々なのだ。
2000年に独立、’04〜’05年にNYに留学。雑誌・広告のビジュアル制作を幅広く手がけ、現在、YAECAのセレクトレーベル「LINDLEY」を監修。