2026.03.02
最終更新日:2026.03.02

【おしゃれな大人が語る時計と眼鏡の「新定番」】自分のルーツにひもづくヴィンテージを選ぶ|文・笹田侑志(建築家)

40歳ともなれば、積んだ経験、仕事と家庭、出会う人…それらとともに自分だけの定番が変わりゆくもの。そんなエピソードを8人の大人がエッセイでつづる。

自分のルーツにひもづくヴィンテージの時計と眼鏡

ヴィンテージの時計
ヴィンテージの眼鏡
ステンレススチールのケースが輝くユンカースの腕時計「BAUHAUS AUTOMATIC」と、日本産ヴィンテージならではのサンプラチナ素材を使用したメガネ。時計€720/ユンカース ヴィンテージのメガネ¥60,000〜/コギトエルゴスムトーキョー

文・笹田 侑志(建築家)

 20代は修業の期間。30代で独立し狼煙を上げる。40代は若手。私の職業である「建築家」はそんな仕事だと思う。そんなコテコテのロールモデルのご多分に漏れず、私自身も先人が辿ってきたルートをせっせと走り、気が付けば38歳を迎えた。建築事務所のスタッフ時代は丁稚奉公のようなものなので、どんな服でも気にせず着たが、独立するとそうはいかない。日中は工事現場や鉄筋の上を歩き、夜はクライアントに会ったり、式典に出席したりと、TPOが短時間でめまぐるしく変わる。そのためどんなシーンにも対応できる機能性と自分らしさを兼ね備えた「正装」を考えたいと思い始めた。そんな自らを取り巻く環境と心境の変化の過程で身に着けるようになったものを二つほど紹介したい。

 一つは腕時計。購入するまで全くと言っていいほど、時計とは縁がないと思っていたのだが、自分自身が時計産業で有名なスイスで建築を学んだという経緯もあり、歳とともに興味が湧いてきた。そうはいってもピンからキリまである時計の世界で何を身に着けていいやら…と悩んでいた矢先に友人に教えてもらったのがヴィンテージの時計を扱う豪徳寺のL o’clock。いろいろと話を聞き、JUNKERS BAUHAUS AUTOMATICを購入した。元々は映画『風たちぬ』のセリフにも登場するドイツの航空機メーカーのユンカース社に由来するブランド。

 バウハウスと関係が深く、腕時計のシリーズ名にもなっている。機能的でシンプルでバウハウス的(?)。バウハウスは建築を勉強すれば必ず登場するし、自分が留学したスイスドイツ語圏の質実剛健な雰囲気とも通じるものを感じた。自動巻きなので電池交換はないのだが定期的にメンテナンスをしないと狂ったりバンドの革がひび割れたりと手がかかるところがむしろ愛着にもつながっている。

 もう一つはサングラス。37歳で妻と入籍する際に何かを贈り合おうと話し合い、お互いにサングラスを贈った。何故サングラスだったのかは説明するのが難しいが、ライフステージの変化や、 歳とともに増すプロジェクトへのプレッシャーなどに対して「顔」を変えたいと思ったのかもしれない。元々、様々なサングラスを気分で使い分けていたがそのラインナップになかったものを探した。気になっていたのは自分の父の世代がかけていたツーブリッジのフレーム。いくつかの店舗を巡ったが、現代的なものが多く納得がいかなかった。最後に入ったコギトエルゴスムトーキョーのデッドストックの棚にドンピシャリなものがあった。古臭く、庶民的でありながら、一周回ってクラシカルでカッコイイとも思った。フレームはHOYA製、調光レンズを入れて屋外ではサングラスとして、屋内ではメガネとして使っている。

 ふと思い返せば自分が20代のころから憧れてきた建築家は皆、自分なりの「正装」を持っていたような気がする。少しずつ仕事もプライベートも成熟してきたこの年齢で考える自分なりの「正装」は結局のところ、これまでの自分のルーツに基づく感覚で選び取られているものなのかもしれない。

笹田侑志さんプロフィール画像
建築家
笹田侑志さん

建築コレクティブ、ULTRA STUDIOを共同主宰。一級建築士。青木淳建築計画事務所(現AS)を経て、独立。最新作、集合住宅「アスタルテ上原」が2025年に完成。

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