2026.03.05
最終更新日:2026.03.05

【おしゃれな大人が語る革靴の「新定番」】テーラードスーツの足元にはビスポーシューズを|文・平野史也(テーラー)

40歳ともなれば、積んだ経験、仕事と家庭、出会う人…それらとともに自分だけの定番が変わりゆくもの。そんなエピソードを8人の大人がエッセイでつづる。

テーラードスーツの足元にはビスポークシューズを

ビスポークシューズ
名古屋に工房を構えるボレロ シューメイカー。東京や海外でも受注会を行う。革靴(オーダー価格)¥418,000~・(初回木型代)¥55,000/ボレロ シューメイカー

文・平野 史也(テーラー)

 時代に流されないスタイルは、もともと僕にとって装いの土台です。その範疇で、若い頃には派手なものに挑戦した時期もあり、根底には「自分らしさ」を大切にしたいという意識がありました。そして年齢を重ねるにつれて服への向き合い方は変化し、30代後半にはより明確になってきた。価値観を決定的に変えたのが、イギリスでの経験です。デザインの主張よりも、素材の質や仕立ての美しさ、着心地、そして細かなディテールへと自然と目が向くようになりました。シンプルであることの奥深さを改めて捉えるようになったのです。多様な価値観の中で、服は単なる流行や見た目ではなく、その人の生き方や環境への意識を映し出すものだと知りました。きちんと見えながらも動きやすく、日常とビジネスの両方に寄り添う装い。服を通して「信頼感」や「安心感」を伝えることの重要性に気づいたのです。

 靴についても、考え方は同じです。もともとイギリスの既成靴が好きで、堅実で美しく、テーラードスタイルにすんなり馴染む佇まいに惹かれていました。そして独立を経て、ビスポークテーラーとして仕事を続ける中で、「自分のスーツと本当に相性の良い、スタイルのある靴を履きたい」と思うようになったのです。初めてビスポーク靴をオーダーしたいと考え、出会ったのはボレロ シューメイカー。華美な主張はないものの、足を入れた瞬間にわかるバランスの良さや、テーラードスーツと並んだときの自然な佇まいに強く共感したのを覚えています。靴単体で目立つのではなく、装い全体の完成度を静かに引き上げてくれる。その感覚は、僕自身のものづくりの考え方とも重なるものです。既製靴にはないシルエットと全体のバランス、そして足に吸い付くような履き心地。この靴を自分のテーラードスーツと合わせたとき、全身のバランスが驚くほど美しく整ったことを、よく覚えています。そして今、ビスポーク靴が日常や仕事の中でどのように「生きているか」を実感する場面が多くあります。履き込むことで生まれる経年変化や、その人だけの表情。使い手の時間とともに育った靴は、仕事相手との会話のきっかけになることも少なくありません。こうした存在は、自然なコミュニケーションを生み出してくれます。服も靴も、ただ身につけるためのものではなく、自分自身や仕事への姿勢を静かに語る存在。ビスポークとは、信頼と安心感を形にするための、極めて実用的な選択なのです。僕にとっての「かっこよさ」とは、派手さではなく、自分の価値観や生き方がにじみ出る「品格」と「心地よさ」のバランスなのだと実感しています。

平野史也さんプロフィール画像
テーラー
平野史也さん

サヴィル・ロウのヘンリープールで修業し、ロンドンで「FUMIYA HIRANO」を創業。現在は西麻布でテーラー「FUMIYA HIRANO BESPOKE」を構える。

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