40歳ともなれば、積んだ経験、仕事と家庭、出会う人…それらとともに自分だけの定番が変わりゆくもの。そんなエピソードを8人の大人がエッセイでつづる。
信頼を勝ち得るゼニア生地のフルオーダースーツ
文・小松 隼也(弁護士)
弁護士という職業柄、ジャケットを着用しない日はほとんどありません。とはいえ、クライアントの多くがファッションブランドやアーティストの方々なので、Tシャツやニットにジャケットを羽織るくらいのことも多いです。ザ・ロウやジル サンダーのシンプルなものから、コム デ ギャルソンやヨウジヤマモトのようなデザインが効いたものまで場に沿って選びます。海外の方に会う日には日本のデザイナーズを着ること自体がコミュニケーションになったりもしますね。ただし、週に2、3度はスーツを着てネクタイを締めるべき日があり、昔から大切にしているのが体に合ったパターン。肩や腿まわりが張ったりウエストが余ったりしない正しいサイジングが仕事の場にふさわしいと感じますし、自分自身の気持ちも引き締まるものです。
このゼニアの生地との出会いは、10年ほど前にファッションの仕事でパリに行った際。サント=ノレ通りのゼニアで接客をしてくれた陽気な女性の店員から「生地と香水はいいものをつけないと。ゼニアのTROFEOの生地を触ってみて」と勧められ、驚くほどの柔らかさと上質な半光沢素材の虜になりました。それからというものドレスシャツと香水はゼニアを長く愛用していたのですが、40歳を迎えるというタイミングで、あのTROFEOの生地でスーツを仕立てたいと思い、銀座のSAKAEYAを訪ねたのです。若かりし頃は、せっかくのオーダーメイドだからと遊び心のある柄を選んだりもしましたが、今、欲しいのはネイビーとダークグレーの最もビジネスシーンに適したスーツ。予約をして伺うと、テーラーという緊張感に身構えることもなく、肩幅、腰のドロップ、ウエスト幅、裾幅といった部分はもちろん、ラペルの細さから胸ポケットの形、裏地など、細かい点も自分好みに調整させてもらえました。現代的な細身のシェイプは残しつつも、肩幅とウエストに余裕があり、長時間着ていても全く疲れることのない美しいスーツが完成したんです。このフルオーダースーツを着用するようになってから、社交の場で「スーツ姿が似合っていますね」と声をかけられる場面が増えました。弁護士としても、初めて会った依頼者や交渉相手からの信頼を勝ち得るために、このスーツが一役買っていることは間違いありません。特に40代という年齢になり、スーツ姿に説得力が出るようになったことが嬉しく思いますし、最高の心地よさでやる気を高めてくれるこのスーツが、もはや人生の定番となりそうです。このスーツをお直し無しでさらに10年着続けるために、週2でジムに通うのも悪くないなと思っています。
「三村小松法律事務所」代表。現代美術商協会(CADAN)の顧問を務め、『切り拓く ― 知財法の未来 三村量一先生古稀記念論集』では著作権法について執筆。