日本を代表するパンツ職人・尾作隼人さんが、セレクトショップのストラスブルゴとタッグを組んだ。日本人の体型を知り尽くした彼が辿り着いたスラックスとは。
体型の弱点をカバーできるゆるすぎないワイドフィット

銀座の老舗テーラーからキャリアをスタートさせ、2007年にパンツ専業の職人として独立。これまで日本最高峰のテーラーやサルトリアのパンツを手がけ、数百人の採寸と型紙作製を行ってきた。現在は予約制のアトリエでビスポークパンツを製作している。

新規のオーダーは受けておらず、オーダーずみのものでも完成まで2年待ち。日本屈指の技術力で人気を集めるビスポークのパンツ職人・尾作隼人さん。そんな彼が、ストラスブルゴの軸になるパンツ専業ブランドをつくりたいというオファーを受けて監修したのがSO(エスオー)だ。「既製スラックス」の枠を超えたシルエットは、どのように完成したのか。

「日本人の体型的特徴はどういったところなのか、骨格をどう見せればいいのかを突き詰め、原理的な部分でパンツとしてあるべき姿を追求しました。体型のバランスがいい欧米人と比べると、日本人の骨盤は広くて薄い傾向にあります。また、バストよりもヒップのほうが大きくなりがちで、全体的に下膨れのようなシルエットになるため、パンツづくりにおける難点が多いのです。またO脚のカーブもきついなどの問題もあります。だからこそ、自分はそうした悩みと向き合いながら、はく人がポジティブになれるパンツをつくりたいと常に考えてきました。今回、既製品として、その弱点を補整するパターンで構築したのがSOです。基本的にクラシックフィット(ツープリーツ・ノープリーツの2種展開)、スリムフィット(ワンプリーツ)、ワイドフィット(ツーインプリーツ)という3つのシルエットが展開されています。今回はストラスブルゴ側からより現代的なスラックスにしたいとリクエストがあったので、股上を少し下げてモダンなアレンジを加えました。股上の前側が下がると、必然的にお尻の位置が高くなります。ウエストではなくヒップでサイズを合わせることで腰まわりを包み込むようなはき心地をキープしつつ、きれいなシルエットを実現できるんです。自分自身はクラシックフィットやスリムフィットのような、テーパードが人の身体をいちばん美しく見せることができると思っています。お尻、太腿、膝、足首に向かって先細りになっていく形を自然にトレースしたスラックスを考えるとテーパードになるからです。ただ、先ほど日本人の体型についても述べましたが、体型の補整であったり、身体の個性をいい意味で消したい人も多い。そういったコンプレックスを消したい人に寄り添ったパンツとして、ゆるすぎないワイドという選択肢があると思います。写真のワイドフィットには、ツープリーツが入っていますが、内側に向けて倒すインプリーツをやや中心寄りに配置しているのが特徴です。そのため、センタープレスは曲線的なラインを描きながら、腰まわりは過度なゆとりが入らないように適度なフィット感に抑えて上品な印象に仕上げました。結果、トレンドを追求したものではないワイドの中で、普遍的な“中庸の美”を形にできたと思います」

こちらの「ワイドフィット」は、ベースとなった「クラシックフィット」に比べて、股上がやや深いワイドシルエットなのが特徴。裾に向かってゆるやかなテーパードをかけているものの、ストレートに近い洗練された佇まいになっている。ツーインプリーツで腰まわりに適度なゆとりをもたせながら、もたつきのない美しいフィットに仕上げているのは、尾作さんだからこそできる業。

ウエスト裏側のスレキ部分は通常、生地をバイアスに取るため、斜めのストライプになることが多い。しかし、SOではもともと斜めのストライプが入っている生地を使い、縦ストライプにしてビスポーク的なディテールを表現。
SO
2022年秋冬にデビューした、ストラスブルゴ発のパンツ専業ブランド。尾作さんがビスポークによって培ってきた経験を落とし込んだパターン設計が魅力。