ドレスの達人は、シャツ一枚にもこだわりをもっている。微差だけど、知っているのと知らないのとでは大違い。そんな細かくて、大切な話。
鴨志田康人に訊く「理想的なドレスシャツ」の話

日本を代表するウェルドレッサーとして世界中からリスペクトされる鴨志田さん。その装いは、シャツが一つの鍵になっているようだ。
「シャツやネクタイ、ソックスやポケットチーフなどを総じて『ハバダッシェリー』といいますが、これは紳士服において極めて重要なエッセンスです。中でもシャツはタイと並んで、装いの顔となるアイテム。ベーシックに徹するのもいいですが、僕は幅広い色柄をたくさん集めています。もちろん手当たり次第にというわけではなくて、僕なりに見定めるポイントがいろいろとあります。大前提としては、生地・仕立てともにクオリティの高い一枚であること。それを判断する要所はたくさんあるのですが、逐一説明するときりがないので端的にお伝えしましょう。『タイドアップはもちろん、ノータイで着ても美しいこと』。これが、いいシャツの条件です。クオリティの高いドレスシャツは、襟やカフスの芯地が内側で接着されていない“フラシ”仕立てになっています。襟元の立体感をキープしつつ、独特のやわらかさも表現するのがその目的なのですが、ゆえにノータイでも襟がペタッとつぶれず、かといってガチガチに見えない。首元に自然なエレガンスが生まれるのです。さらに良質なシャツは縫製が細やかで、動きやすさをかなえるため必要なところに適切なゆとりがとられています。これはすなわち、タイで飾らなくてもシャツ自体の佇まいで美しく見えるということです。カジュアルとはひと味違うドレスシャツ選び。細かいところにこだわるのも面白いものですよ」
1957年生まれ。ユナイテッドアローズに創業メンバーとして参加し、現在はクリエイティブ・アドバイザーを担当。同時にポール・スチュアートやフェリージの日本におけるディレクターも務める。自らのブランド「カモシタ」も国内外から好評を集める。
STYLE 1|袖幅と身幅のゆとりを楽しむ

「クラシックなドレスシャツは身幅や袖に十分なゆとりが設けられていますが、カジュアルなオーバーサイズシャツとは大きく違う点があります。それは、ネックやカフス、袖山といった要所がジャストフィットであること。さらにアームホールの鎌(袖ぐりの下側)も高め。これらによって、動きやすさと見た目の優雅さを両立しています」。

STYLE 2|タイスペースは2.5㎝が命

「第一ボタンを留めたとき、襟のつけ根の間にできる隙間をタイスペースといいます。これがゼロに設定されているものもありますし、数センチ開けられているものもあります。往年のハリウッドスターをはじめ、アメリカ人はタイスペースを広めにとる傾向があって、アイビーを原点とする僕もそういったシャツが好みですね」。

STYLE 3|タブカラーを外して着崩す

「タブカラーシャツはネクタイを締めるとコンパクトで端正な首元になりますが、タブを外して無造作にドレスダウンする着こなしも昔から親しまれています。今日は’80年代に買ったレママイヤーのカーディガンを合わせてみました。ちなみに僕は、剣ボロ部分にガントレットボタンがないシャツが好み。袖口が自然にたわむのがいいんです」。

DETAIL|いいシャツはテールも美しい

「シャツのクオリティは、テール(後ろ身頃の裾)の表情にも表れます。カッティングのラインや端の始末に、作り手の美意識がにじみ出るのです。さらに言うと、ドレスシャツは着丈の長さも重要。タックインが前提となりますから、丈が短すぎるものは避けたほうがよいでしょう。着丈がしっかりとられていればブラウジングもきれいにきまりますし、座ってもかがんでも裾まわりが乱れません。スーツもそうですが、いいドレスシャツは動いたときにこそ美しく見えるよう作られているのです」。