香水っていうのは難しい。例えばつけすぎは、飲食店では体臭がきついのと変わらないくらい迷惑だろう。そうなると、適度な量を節度をもってつけるのが正しいということになるが、それがありきたりな匂いだったら、なんだかつまらない。そうなると、大人の香りってどんなものだろう? ヘアスタイリストのKENSHINさんが出してくれたアイテムの一つが、フエギア 1833の香水「ウード マレーシア」だった。KENSHINさんによると「香りっていうのは、面白さが言語化できないし、移ろうし、不安定すぎる。環境や自分の気持ちでまったく変わるんだよね」とのこと。それはワインと似ているのだろう。言語化するのは難しいし、移ろう。感覚でとらえることで本質に近づくのかもしれない。「例えば撮影してて、現場で『これ、カッコいい!』ってチームで共有できるやつって、言語体系にないじゃない? でも、みんながわかるみたいな、インスピレーションだけで共有できるみたいな。香りも“言語のステージにない”というところで、すっげえ面白いなと思っていろいろ集めだしたの。でも、集めきると似たようなものが多くて。マーケティングにのっとったものが多いの。売れるものとか、人に不快感を与えないとか」。僕も常々感覚共有というのは難しいと思っている。だから、ファッション撮影の内容についての打ち合わせはしない。人の自由な感覚を、共有して否定されても困るし、相手を否定するわけにもいかない。でもだからこそ統制を保つためにマーケティングが必要なこともあるのだろう。それさえあればクリエイティブはいらないのだから。数年前にもKENSHINさんは、天才調香師がディレクターを務め、原材料にもこだわっているとあるブランドを教えてくれたことがあった。当時、そのブランドはまだ日本には展開されていなかったから、香港で買って僕も使っていた。「もう一人、天才調香師がいて、某ブランドの香りをつくった人でうちのラボにもたまに来るんだけど、その場で調香させたら、めっちゃ上手なの。でも言語体系では説明できないんだけど、なんとなく概要ぐらいは伝えられるというか…。だけど、フエギア 1833は、やっぱりちょっと無理」。その頂点が、「ウード マレーシア」だそう。「“いい”とか“悪い”とかじゃないの。例えば、世間で“よし”とされてる香りをつけたとして、何度もかぐことはないと思う。でもこれを提示されてしまったら何も言えない。その段階まで突き詰めていることがすごい。これはエポックメイキングなんだよ」。本能に訴えかける香りなのだろう。「ここは本当に考えられてて、原材料が西洋文化のマーケティングにないものばっかり使ってるの。だから、使い勝手も全然違う。5種類くらい重ねてつけていくと、違う香りにどんどん変わっていくんだ」。予定調和に個性はない。それが大人の香りってやつなのか。
香水「ウード マレーシア」100mL¥182,600/フエギア 1833