とはいえ、何もしてないわけはないのである。社用PCなら「何もしてないのに壊れた」を何度も経験したが、洋服の場合は原因が明確で、滑って転んで擦りむける、ありえない頻度で着てしまう、タグの洗濯表示を完全無視、間違えて乾燥機にブチ込む、繕うにも針仕事が絶望的に下手…と思い当たる節が大いにあってどれも自分の責任だ。
今月のスタイリスト長谷川昭雄特大号について、長谷川さんとは担当の中林、本誌編集長の稲葉、統括の自分が昨秋から打ち合わせを始めた。「手仕事」がキーテーマとなり、それは長谷川さんに依頼されて今書いている原稿のお題でもある。しかし自分自身は普段の格好で手仕事を意識することが、実はない。そもそもマスプロダクトが好きだし、例えば「日本で数少ない職人による伝統の技」のような高尚さが入り込む余地がない。
むしろ愛着のある手仕事は「弥縫策(びほうさく)」だ。一時しのぎで当座を乗り切る。スピーディで適当だけど、それがいい。尻が擦り切れたスラックスは当て布&ミシン叩きで対処。が、生地が極薄になっているため当て布周囲にテンションがかかり再び裂けてしまう。「男子自身」連載第5回掲載のクリスタセヤのストライプシャツは色違いを購入。だがドアノブに引っ掛けて裾が裂け、こちらも縫い留めた。古着のカシミヤコートは場当たり的リフォームを敢行。アームホールを太くした際に生地が足りず、身頃裏に別の服から布を継ぎ足すことに…。弥縫策で直した服は存外に大切で、結局は長期にわたり着続ける。傷だらけではあるが、さも買ったばかりの服のように堂々とした面構えで今日も自宅ワードローブに並んでいる。
本誌の長谷川昭雄連載「男子自身」は2019年3月号からスタート。前号2026年6月号で第76回を数えた。街と服を取り上げる連載初回のテーマは「神保町でスーツ」だった。モデルのリヒトをロケ撮影した老舗喫茶「珈琲エリカ」と餃子の名店「スヰートポーヅ」は残念ながら閉店し、すでにこの街にはない。
自分は幸せなことにUOMOの仕事を続けているが、編集長職もある意味「弥縫策」を駆使する。最初に大きな指示や問いかけはするものの、いざ走り始めればこまごまとした取材、撮影をして誌面を作るのは現場の若い編集者とスタッフだ。編集長はむしろ最終局面にしゃしゃり出る。想像を超える仕上がりの校正紙を見てほくそ笑むこともあれば、「なんだか、こんな感じになっちゃいました」みたいなページを前に首をひねることもある。読者に伝わりにくい部分を指摘する。順番を入れ替える。タイトルを変更する。原稿に赤を入れる。ときには内容すら差し替える…。焦りつつ弥縫策を提案するのが編集長の仕事だ。締め切り直前、多少なりともよくなると信じて編集者たちはページに直しを入れていく。どの号も気楽に作れた例はなく、慌ただしさも俯瞰すればドタバタした喜劇のようだが、そうしてギリギリで出来上がったページの数々が、涼しい顔をして雑誌の目次には並んでいるのだ。
写真・文/山崎貴之(UOMOブランド統括)
この雑誌のいちばん偉い人。僕が連載を始めたときの編集長でもある。ずいぶん前に「SPUR」で「私たちは思い出を着ている」という特集があった。僕はそれをセブン–イレブンで見かけ、タイトルと内容に感動して生まれて初めて女性誌を買った。後で知ったが、それが山崎さんの「SPUR」編集長最後の仕事であったらしい。