毎日同じものを作るのがいちばん難しい

メルシーベイクのクッキー缶は、年に2回、決まった時期にしか販売されない。1月と8月。パティシエの田代翔太さんは、それぞれひと月の間はクッキーを焼くことに専念する。朝8時から夕方まで焼き続けても、販売できる個数は一日数十缶程度。淡々とした作業でありながら、そこにはさまざまな職人的な技術が詰まっているという。

「毎日、気温や湿度が微妙に変わるので、その日ごとに生地を混ぜる時間を変えています。感覚的なところなので難しいんですが、何年間か繰り返してようやくあんばいがわかるようになる。実は毎日同じものを作るって、いちばん難しいことなんです。焼きの時間についても同じで、目安はあるんですがこれも毎日差が出てくる。でも、その変化に気づいて、自分で微調整していくのが楽しいんですよね。そういう判断はAIにはできない作業ですよね」。

そして、しっかり待つことができるかも重要だそう。「クッキー作りって、ステーキよりも煮込み料理に似ているんです。自分はLibertinの紫藤さんみたいにパッと焼いてその瞬間のおいしさ!みたいなのができない。ちゃんと我慢して、おいしくなる瞬間を待つ。それも大切な技術なんですよね。最後に詰めるときも集中します。とにかく隙間があかないように、それだけを心がける。一個一個は弱いんですけど、集まるといい感じです」。クッキー缶を持つとずっしりと重たくて、そのボリュームに驚く。でも食べ始めると、コレを食べてアレを食べて、最初のに戻ってと手が止まらなくて、つい食べすぎてしまう。それは田代さんの手仕事が詰まっているから。

お菓子作りの仕事は日々淡々とした作業が多い。その中でも、年に2回はひたすらクッキーを焼き、詰めていく。

田代翔太(MERCI BAKE オーナーシェフ)
松陰神社前にある洋菓子店「MERCI BAKE」で1月と8月に発売する「クッキー缶」(¥4,900)。いつも6種類ほどが入っている。夏と冬で入れるクッキーは替えていて、これは冬バージョン。夏はメレンゲなど湿度に弱いものは外して、ビールに合う胡椒がきいたクラッカーなどを入れている。