最上を知ってしまったからには手を抜きたくない

「知らなかったらいいんですけど、こっちの食材のほうがおいしいと知ってしまった以上、それを使わないのは絶対に嫌なんです。だから、市場には自分で食材を仕入れに行っていて、いろいろ勉強させてもらっています。まだまだ修業の毎日です」。取材中に漏らしたひと言から、京都の名居酒屋「赤垣屋」の四代目伊藤剛氣(ゴウキ)さんの誠実さが伝わってくる。ゴウキさんはとにかく働く。朝一番に市場で仕入れをした後、すぐ近くにある昼営業の「ザコトラ商店」に12時から15時まで立ち、休む間もなく、17時から23時まで営業する赤垣屋の準備をする。そこまで仕事にまっすぐだからこそ、つくり出せる味があり、開店前から行列ができるほど人気なのだ。

ゴウキさんが京都の夏の風物詩として教えてくれたのがハモ。昔、暑い季節でも生きた新鮮な状態で唯一運ぶことができたのがハモだったそうで、滋養強壮の効果もあるため好んで食べられてきた。7月の祇園祭は別名、鱧祭りと呼ばれているほど京都人と馴染み深い食べ物。そんなハモの中でも、ゴウキさんをヤバいとうならせるのが韓国産。「顔つきや大きさが国産のものと段違い。値段は倍近くするのですが脂は3倍くらいあって、とにかく骨が柔らかい。ハモ本来の身の甘さが口に広がります。値段が高いので、京都の居酒屋でもなかなか使っているところはないのですが、韓国産のおいしさを知っている以上、市場にあるときは絶対に使いたいと思っています」。旬の食材から最良の味を引き出す優れた職人の、包丁を入れ、盛りつけるまでの流れるような手つきは美しかった。

京都の夏といえば、ハモ。赤垣屋ではハモ本来のおいしさを味わってもらうために湯通しではなく、火で炙っている。

伊藤剛氣(赤垣屋 店主)
京都・川端二条にある1934年創業の老舗居酒屋の四代目。この「ハモの焼霜(やきしも)」(¥1,500)は炙ることによってハモの旨味を堪能できる。レアな部分も楽しめるように、あえて両面ではなく片面だけに焼き目をつけている。仕上げはすだちとわさびと塩で爽やかに。あらゆるところに素材の魅力を堪能してもらいたいというゴウキさんの工夫がある。使われるわさびは、兄貴と慕う「そば 酒 まつもと」の松本さんに教えてもらった長野県の安曇野のもの。わさびの茎まで入れることでサクサクした食感になっている。