酒器 今宵堂の「成駒箸置」

京都の鴨川近くにある酒器専門店。日本酒好きの上原連さんと梨恵さんご夫妻が営んでおり、お店にある工房で二人が手作りした酒器が並ぶ。ユーモラスで愛おしいデザインのものが多く、この「成駒箸置」は表面の「素面」から酒を飲み進めてひっくり返すと何に成る?というアイデアから生まれた。裏面の文字には「下戸・管巻・酩酊・千鳥足・泥酔・笊・大寅・底無・寝落・助平・笑上戸・泣上戸」などがあり、どれもクスッとできるものばかり。ちなみに箸置きを撮影したのは、この号で取材させてもらったあるお店。上原さんご夫妻の原稿を読めばどこかわかるかも。

箸置き「成駒箸置」(各)¥500/酒器 今宵堂


文/上原連・梨恵(酒器 今宵堂)

酒卓で箸を休める素面(しらふ)の駒。酒が進めば盤面も進む。そろそろ成るかと駒を裏返すと…酩酊、泥酔、千鳥足と酔態が現れる「成駒箸置」です。

まずは、ビールとポテサラから。様子見にちびちびと貝柱のなめみそで歩を進め、おや? 隣は鶏肝ニラ玉の妙手と来たか。ならばこちらもと相乗りしつつワインで局面を変える。燗一合とよこわの炙りがきたらいよいよ終盤。〆の蕎麦は、もりで寄せるか、かけで詰むか? しばし長考の昼下がり…と、棋譜を記すように酒肴を組み立ててゆく酒場のカウンター。そんな愉しき一局の中に訪れる手持ち無沙汰のひと時。そこでふと目線を落とし、手元の箸置が小さな手遊びになればと拵えました。
 笑上戸に泣上戸、管巻く者も底無しも。最初はみな同じでも裏を返せば人も様々。ひっくり返って強くなるのが将棋の駒ですが、酔っ払って弱くなるのが酒場の駒ですね。独酌の手慰みにと思っていましたが、隣の指し手と駒を見合わせ笑い合ってもいただいているようです。

錦の「有次」さんに型を誂えてもらい抜いた駒。拘りを語るほど大それたものではありませんが、文字を書く前、角に軽くやすりをひとかけしています。野菜で言う面取り、手触りをちょいとでも優しくと。やはりこれは呑兵衛のための大人の玩具。箸を置くのみならず、酔いのさなかに弄んでほしいのです。